成田龍一「故郷という物語」
成田龍一「「故郷」という物語」
この程度の単行本を通勤の行き帰りのそれぞれ30分で、3日で読んでしまうのは速いのか。年間百冊読むというと、そんなに速く読めるのかという人がいたが、個人差なのか。もっとも、私自身、速いことよりも、内容が残っていることの方が大事な気がするが。しかし、読書ははっきり言って、不毛な楽しみ、時間の浪費なのである。それが読書の楽しみと思っている。さて、この本、明治以降の近代化の過程の中で、地方から東京に出てきた青年が東京という都心の生活に溶け込んでいく一方で、郷土の共同体の文化から徐々に離れると共に、いうならばノスタルジイとして「郷土」を言語化し、意識化していく過程を実証していく。例えば、県人会のような郷土会の運営や雑誌、石川啄木を代表とした文学で取り上げられた、地方からの上京した青年と故郷との関係性、とくに啄木の場合には、郷里から排除され一課離散の目にあうため、複雑ではあるが、その分郷土からの遊離と理想化され観念化された「故郷」が定型的に提出されている。できれば、これを国家機構が統合の手段として利用していく様を、もっと突っ込んでほしかった。例えば「故郷」という唱歌には、抽象化された故郷の光景がうたわれ、しかも作詞者をあえて不詳とすることで、特定の個人の故郷ではなく抽象化された故郷一般として、この歌が統合において機能したことなど。また、この「故郷」が戦後の経済復興、高度経済成長の過程で、地方の農村共同体自体が崩壊していったことによって、どのように変容していったかも、分析してほしかった。このようにフィクション(装置)としての共同体、例えば、家族、会社、地域社会の中で、我々は生きているのだから、その中で個人が居場所や機能を担うペルソナが、いわばアイデンテティなわけで、人格のフィクションとしての性格まで、突っ込めるのではないか。
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