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2010年9月24日 (金)

楠木建「ストーリーとしての競争戦略」(5)

それでは、第二章の語り口を堪能してください。長いのが嫌だという人は、前日の私はこう読んだという要約に回ってください。

まずは、競争戦略の対象範囲です。戦略には異なる二つのレベルがあります。一つは競争戦略、もう一つは全社戦略です。ここでのポイントし両者を区別して考えると言うことです。競争戦略とは、特定の業界、つまり競争の土壌が決まっていて、ある企業の特定の事業がその競争の土俵で他社とどのように向き合うのかにかかわる戦略です。ですから、競争戦略は事業戦略ともいいます。全社戦略と競争戦略は、もちん相互に関係していますが、大きく性格が異なります。

競争戦略の二つの目の前提は勝ち負けの基準です。競争というからには勝ち負けがあります。どの業界を取り上げてみても、そこには強い企業と弱い企業が混在しています。なぜ、強い企業は強く、弱い企業は弱いのでしょうか。競争戦略論という分野は、この問に対して納得いく説明、しかも場当たり的な説明ではなくて、統一的な視点に基づいた説明を与えることを目的としています。この会社は強いとか、あの会社は弱いとか、イヤな言葉ですが「勝ち組」とか「負け組」とか、ふだん私たちはそういう言葉を自然に使っています。ところで、われわれは何を基準にそういっているのでしょうか。どういう状態が「勝ち組」であり「成功」なのでしょうか。つまるところ、企業経営は何を最大化するべきなのかという問題です。一見すると当たり前のように見えますが、改めて考えてみると、なかなかに込み入った、そのために誤った理解を招き易い問題です。企業がめざすべきゴールとは、本当のところ何なのでしょうか。勝ち負けを判定する基準として大切そうなものをとりあえず七つはせかり並べてみました。

     利益

     シェア

     成長

     顧客満足

     従業員満足

     社会貢献

     株価(企業価値)

競争戦略の考え方では、①の利益をもっとも重視します。もう少し詳しく言うと、「長期にわたって持続可能な利益」です。戦略論ではSSPといったりします。長期とは具体的に何年くらいかと聞かれると困ってしまうのですが、少なくとも四半期の単位の瞬間風速的な利益ではなく、五年、十年と持続可能な利益を追求すると言うのがまっとうなゴールの置き方です。

企業が一義的に追求するべきゴールが利益だとすれば、次におさえておきたいのは、利益はどこから生まれるのかという「利益の源泉」についての理解です。戦略論の考え方からすると、企業が生み出す利益には、いくつかの源泉があります。

第一の利益の源泉が、「業界の競争構造」です。世の中にはそもそも利益を出しやすい業界と、利益を出しにくい業界がある。業界の利益ポテンシャルに影響を与える要因は何か。これが業界の競争構造という問題です。もし皆さんがこれからフリーハンドでゼロから事業を始めると言う立場にあれば、業界の競争構造を理解することは、とりわけ重要な意味を持っています.利益が出やすい業界を注意深く選び、利益が出にくいような構造にある業界への参入を避ける。この戦略的選択がとても大切になります。

競争戦略論の有名な枠組みの一つに、マイケル・ポーターさんが確立した「ファイブフォース」があります。ファイブフォースについては聞いたことがある方も少なくないと思います。これはある業界の競争構造が儲かりやすいようになっているかどうかを分析し、理解するためのフレームワークです。ボーターさんご自身の本はもちろん、多くの競争戦略の教科書に必ず出てくる話なので、ここでは内容の詳細には立ち入らず、その基本的な考え方だけを押えておきたいと思います。このフレームワークの前提はシンプルです。どんな業界でも、その業界の利益を奪おうとする圧力がかかっています。これらの圧力が大きければその業界の潜在的な利益機会は小さくなり、逆に圧力がそれほどなければ潜在的な利益機会が大きくなります。圧力には次の五つの種類があります。その第一の圧力が、「業界内部の対抗度」です。対抗度というのは聞き慣れない言葉ですが、その業界やすでに参入している既存企業の間の競争の激しさを意味しています。対抗度はさまざまな要因によって変わってきますが、たとえば、競争企業の数を考えてみましょう。100社がひしめき合っているような業界よりも、3社だけしか参入していない業界のほうが利益を出しやすいのが普通です。もし独占であれば対抗度はゼロになります。市場の成長性も対抗度を左右します。急速に成長している業界では、市場全体が毎年大きくなっていくものですから、新たに開拓される更地をどの企業で獲得するかという競争になります。しかし、成長が止まってしまった業界では、どこかの企業が成長すると言うことは、どこかが売上やシェアを減らすと言うことになります。「業界内部の対抗度」が、すでに参入している企業間で現実のものとなっている競争に注目しているのに対して、第二の圧力である「新規参入の脅威」は潜在的な競合関係を問題にしています。今その業界に参入している企業が平均的に見て高い利益水準を達成していれば、その業界に参入しようと考える企業もまた多いでしょう。しかし、参入するにはコストがかかります。このコストのことを参入障壁といいます。だれでも簡単に入っていけるような業界であれば、参入を阻止するために価格を低く設定する、といったことが必要になります。結果としてその業界の利益機械は小さくなってしまいます。参入障壁が高い業界の例として、写真フィルム業界があります。写真フィルムの製造は大変な投資を必要としますし、販売チャンネルを構築していくのも気の遠くなるような努力を要します。写真フィルムメーカーはかなりの利益を長年にわたってあげ続けていました。それでもなかなか参入業者が現われなかったのは、それだけ参入障壁が高いからです。その一方で、現在の写真フィルム業界は、第三の圧力、「代替品の脅威」にさらされています。デジタルカメラの急速な台頭で、デジタルメディアとプリンタがあればフィルムを買わなくても済んでしまいます。このように、代替品とは「買い手にとって同じ機能やニーズを満たし、しかもそれを手に入れれば、もともとあった製品がひつようなくなってしまうような製品」を意味しています。第四と第五の圧力、「供給業者の競争力」と「買い手の交渉力」は、製品サービスの利益における競合関係に注目しています。業界と供給業者、買い手はいつも利益の綱引きをしているという考え方です。どんな業界でも投入資源(材料や生産機械や従業員や部品など)の供給業者を必要とします。どちらがパワーを持つのかを意味しています。供給業者の交渉力が強ければ、それは業界にとって脅威になります。業界の利益が供給業者のほうに流れてしまうからです。交渉力とは、利益の綱引きにおける力の強さにほかなりません。

以上で説明したように、ファイブフォースは五つの側面からその業界が直面している脅威の大きさを分析し、業界の利益機会を検討するためのフレームワークです。この分析からは大きく分けて次の二つことがわかるでしょう。一つは、いうまでもなく、競争構造の分析によって町の住みやすさを知ることができるということ。繰り返し強調しますが、利益の第一の源泉は業界の競争構造です。幸いにして、皆さんの業界がファイブスターであれば、自然体で一所懸命やっていればまずまずの利益が期待できるでしょう。もう一つは、戦略の必要性です。実は、第二の利益の源泉が「戦略」なのです。そもそもハワイに住んでいたら、極端な言い方ですが、戦略は必要ありません。自然体で暮らしていればよい。しかしすべての企業が初めから住みやすい国に住んでいるわけではありません。多くの企業は、北極とまではいかなくても、星が一個か二個しかしかない業界での競争を強いられています。業界の競争構造の冒頭で、私はわざと「もし皆さんがこれからフリーハンドでゼロから事業を始めるという立場にあれば」という条件を設定しました。しかし現実には、全く白紙状態から起業しようとするような人を別にして、フリーハンドで業界の選択をできる立場にある人はあまりいません。特定の業界にすでに住んでいるという人のほうがずっと多いでしょう。その業界の外から利益ポテンシャルを見極めようとするアナリストやコンサルタントや潜在的な新規参入者といったアウトサイダーにとっては、ファイブスターはとても役に立つ考え方ですが、競争の当事者である業界のインサイダーにとっては、「今さらそんなこといわれても困るよ…」という面があるのです。業界の競争構造は、かなりの程度まで個別企業の努力を超えた環境要因ですから、いきなり業界全体をファイブスターに持っていこうとしても無理があります。つまり、ほとんどの企業にとって、競争のフォース(圧力)は多かれ少なかれ受け入れなければならない問題なのです。そこで、第二の利益の源泉である「戦略」が必要になるわけです。たとえ現時点でハワイのようなファイブスターの業界に住んでいる企業であっても、中長期的な観点に立てば、戦略は無視できません。なぜかというと、ほとんどの業界において、星の数は時間と共に徐々に減っていくのが普通で、増えることはあまりないからです。これには二つ理由があります。その一つはまたしても競争です。もしある業界がハワイであれば、そこは明らかに住みやすいのですから、多くの企業がぜひとも引っ越したいと考えるでしょう。いくらある時点での参入障壁が高くても、なんとかしてそれを乗り越えるか、かいくぐるかして、その業界で暮らしたいものだと考えるはずです。多くの企業にとって魅力的な業界であれば、時間とともに立て込んできて、だんだん住みにくくなってくるということが容易に推測できるでしょう。もう一つは、マクロレベルの競争環境の変化です。グローバリゼーションや技術革新、規制緩和といった大きなトレンドは、ほとんどすべてが競争の圧力を強め、以前は光り輝いていた星を一つまた一つ消していく方向に作用します。つまり、マクロで見れば、やっかいなことに世の中は必ずといっていいほど利益が出にくいような方向へと進んでいくのです。

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