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2010年9月 4日 (土)

小川紘一「国際標準化と事業戦略」(1)

Ogawa 「メイド・イン・ジャパンは終わるのか」と関連する内容として読んだ。とくに、設計や生産技術に関して「メイド…」の各論として読みことができると思う。

まず、メーカーの製品開発の経営戦略について、潜在的なニーズを引き出して新たな需要を切り開く新商品を開発すれば、すなわち売れる商品を開発できて大量普及すれば必ず企業収益に貢献するということが暗黙の前提としてあった。そして、これが、かつての日本のメーカーの強みであったが、これが変容して、日本の強みが薄くなってきているという議論である。

ここ15年くらいの間で、例えばDVDは基本技術や製品開発、市場開拓、国際標準化もすべて日本企業が主導し、必須特許の90%を押えながら、現在は、DVD装置やディスク媒体の製造では韓国、台湾、中国企業が市場を支配し、日本企業の多くは撤退に追い込まれてしまった。

このことを、製品アーキテクチャーという枠組みで考えていく。製品アーキテクチャーとは設計思想とも言われ、製品をつくり生産する基本的な考え方のしくみのことである。例えば、モジュラー型の製品アーキテクチャーは、パソコンのように個々の部品が手に入れば誰でも組み立てられ、マイクロ・プロセッサーのような部品を入れ替えると素人でも製品の性能をアップさせることができるものである。これに対して、インテグラル型の製品アーキテクチャーは自動車に代表される。パソコンが部品の組み立てだけでできるのに対して、各部分を全体としての製品にまとめ上げるのに、全体的な調整が必須となる。例えば、燃費を上げようと車体を軽くすると、車重に合わせてサスペンションを変え、エンジンを最適調整し、トランスミッションを再調整しなければ、最適な機能・性能を生み出せない。

B本企業は、この分類で言えばインテグラル型の製品アーキテクチャーで圧倒的な強みを発揮してきた。現在でも、自動車、工作機械、機能化学、電子部品などのようなインテグラル型の製品での日本企業の世界市場シェアは高い。かつてのアナログ型の技術をベースにした開発された製品はインテグラル型の製品アーキテクチャーで作られていた。これが1995年を境に、まず、エレクトロニクス産業で大きな変容を始めた。マイコンとこれを動かすファームウェアの代表されるデジタル技術の介在が技術モジュール相互の結合公差を拡大してモジュラー型へ転換させ、オープン標準化が技術の伝播を加速させた。つまり、アナログ技術でつくられた電気製品は、自動車のように基幹部品の相互依存性が非常に強く、超細密な部品の組み合わせによってはじめて製品機能を歩留まりよく復元できる。このような基幹部品が相互依存性を持つ製品の基幹技術は経験やノウハウの蓄積の少ない新興国では容易に真似のできない市場参入に障壁があった。例えば、組み立て工程のひとつひとつが調整プロセスと検査プロセスの組み合わせによって構成され、これらの工程で使用される治具とこれを使いこなすノウハウは、設計部門や組立部分及び生産技術部門・検査部門が連携しあいながら積み重ねたノウハウの結晶であり、これらに携わる人々も企業の長年にわたる企業内教育で育成した人材である。このような意味で長期にわたるノウハウを組織能力として蓄積した企業であって、はじめて参入できるものであった。

これに対して、モジュラー型になると基幹部品が直接あるいは間接的にコンピュータ(マイコン)のデータ・パスにデジタル結合されており、基幹部品の動作はすべてマイコンを動かすファームウエア・モジュール群によって制御される。そこで、このような製品の組立、設計では、ユーザーの使用環境でファームウエアが自動的に部品相互の擦り合わせ作業作業を行うようになる。したがって、設計とは製品が使用される外部環境に常に最適応答させるためのフィードバック制御ノウハウを、ファームウエアへ集中させる一連の作業になってしまう。言い換えれば、ファームウエアが内蔵されたマイコン/システムLSIと機構部品を揃えて単純組立するだけで、製品を量産できてしまう。こうなると、アナログ技術では必要だった設計・組立・生産技術・検査部門などの擦り合わせノウハウが不要となった。つまり、製品アーキテクチャーがデジタル技術の進展によりモジュラー化すると長期的に蓄積をもたない新興国の企業が大挙して市場に参入することになった。

こうなると、日本企業が長期にわたる研究投資で技術開発しても企業の利益に直接貢献するのは、初期の段階だけに留まり、モジュール化によりグローバル市場で大量普及する段階になると日本企業の競争力は急速に失われる。

日本企業が、このような経過に最も早く直面したのがエレクトロニクス産業であり、21世紀の日本企業を支える多くの製品がモジュラー化する流れは誰にも逆らうことができなくなっている。

この後、つづく

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