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2010年9月 9日 (木)

小川紘一「国際標準化と事業戦略」(6)

これに対して、欧米諸国の企業は国際標準によってオープン化しやすい産業で新たな勝ちバターンを1990年代に完成させていた。これを支えたのが大量普及と圧倒的な市場支配力を同時に実現させる仕組み作りとしてのビジネスモデルであり、国際分業の特定セグメントで知的財産を独占化しながらグローバルなオープン環境を支配する、というモデルである。

オープン環境の分業型構造では、自社の知財で独占できる領域を選んで集中し、そして独占し、オープン環境に点在する領域を支配する。例えば、インテルのパソコン用技術モジュールやマイクロソフトのWindows OSなどに見る技術モジュールなどは、いずれもオープン環境にスペクトル分散するサプライチェーンの特定領域であり、その内部技術は完全にブラック・ボックス化され、外部に公開されない。そしてブラック・ボックスに封じ込められた付加価値が、必ず自ら主導する技術イノベーションと知財マネージメントとの連携によって維持されていたのである。たえオープン化を標榜する経営環境であっても、選択・集中で独占できた領域の中でなら、古典的なリニアー・モデル、中央研究所方式、垂直統合型などの経済合理性が明らかに機能していた。

パソコンや携帯電話システムがオープン環境で標準化されれば、グローバル市場で巨大なサプライチェーンが生まれる。ここで特定の企業はもとより特定の国がすべての特許を独占するのは不可能である。しかしながらサプライチェーンの特定領域の内部を観察すると、そこでは明らかに知財が独占されていたのであり、クロス・ライセンスが支配する知財環境ではなかった。新たな知財マネージメントが創造されていたのである。それは、特許の数でも質でもなく、特許と技術力だけでも決してなく、公的に守られた特許権よりはるかに強力な個別企業同志の契約によって特許と技術力の作用が一段と強化されていた。その上でさらにネットワーク外部性などを組み合わせた複合的な知財マネージメントが、新たな知財マネージメントの中核になっていった。

このようなネットワーク外部性などを組み合わせた複合的な知財マネージメントが取引コスト・ゼロに近いオープンなグローバル市場を支配していたのである。これが現在の欧米の国際標準化に見る知財マネージメントの真髄であるが、日本でこの事実を前面に出して論じられることはほとんどなかったように思う。

ここから本書は各分野における事例、モデルを検証していく、そこから今後の日本企業への提言を考えていくが、ここが本書の狙いとするところであるので、ここでは記すことなく、興味ある方は一読を薦めたい。

おまけ…、最後に著者は言う。1980~1990年代の欧米諸国が強行した構造転換政策の背景には、失業率の増大やひどいインフレによる長期の経済低迷があり、塗炭の苦しみのなかで生み出されたものだ。一方、日本企業はというと、1970~1980年代に日の出の勢いでグローバル市場を席巻し、その余韻が1990年代の前半まで続き、このトレンドの乗り遅れた。また、既存の成功体験を持ち企業の組織能力を変えることは並大抵のことではなく、1980年代の欧米でも変化に対応しながら飛躍したのは新興の企業群であって、伝統的な企業ではなかった。日本にはベンチャー企業が少ない。

さらなる懸念材料として、デジタル技術/ソフトウェア技術の飛躍的な発展と国際標準化の重畳によって、類似の経営環境が多くの産業領域へ拡大しつつあるという事実である。オープン環境で国際分業が進展すると、基幹部品のサプライヤーが勝手に完成品側のアーキテクチャーをコントロールできる。したがって競争ルールが一変する。とくに電気自動車で国際標準化が進めば、これまでエレクトロニクス産業で到来したように経済環境となってしまう可能性が高く、日本企業の伝統的な企業制度では対応が困難になると考えざるを得ない。

我々は国際標準化がオープンなグローバル市場に生み出す比較優位の国際分業の中で、日本企業が持つ本質的な得意技を核にした新たな標準化ビジネスモデルや知財マネージメントを自らの手で生み出さなければならない。

と。

しかし、これは学者さんではなく、われわれ、企業の現場で働く人間が、それぞれの現場で苦闘しつつ、それぞれのケースで作っていくべきものだろう。欧米のインテルやマイクロソフトのような今では成功した企業も、当初は追い詰められて已む無くだったりして、作り出してきたのではないか…

この先に関連することは、方向性は多少ズレるものの、楠木建「ストーリーとしての事業戦略」にもヒントがあるように思える。

いつかは、触れたいと思う。

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