楠木建「ストーリーとしての競争戦略」(11)
昨日、いや今日の続きです。続きじゃ分りにくいという人は(8)を読んでください。
一つひとつは小さい話かもしれませんが、数多くの因果論理が着実に積み重なって戦略ストーリーの一貫性が出来上がっています。ストーリーの一貫性の正体は、「何を」「いつ」「どのように」やるのかということよりも、「なぜ」打ち手が縦横につながるのかという論理にあります。要するに、論理が大切だということです。静止画を動画にするのは論理です。ストーリーの一貫性の正体も論理にあります。論理のないところにストーリーはつくれません。論理というと何やら難しそうですが、パスをつなげる論理は当たり前のことばかりです。普通の知的な能力があれば、誰でも容易に理解できます。ビジネスはしょせん人間が人間に対してやっていることです。「論理が大切」、そんなことは誰もがわかっていることです。にもかかわらず、なぜ多くの企業「戦略」が論理不在の、無味乾燥な静止画の羅列で終わってしまうのでしょうか。一つには、構成要素(個別のSPやOC)が目に見えるのに対して、それをつなぐ論理は目に見えない、ということがあるでしょう。しかしそれ以上に、個別のアクションやプラクティスが「目に見え過ぎる」ようになっていることが大きいと思います。世の中で流通する情報の量は以前と比べて飛躍的に増大しています。新聞や雑誌などのメディアは、他社の動向や成功事例を毎日、洪水のように吐き出しています。コンサルタントに聞けば、彼らはその業界の「ベストプラクティス」を、それこそ手に取るように知悉していますから、いろいろなことを教えてくれるでしょう。しかし、そうしたアプローチは要素のつながりについての論理を覆い隠してしまいます。「ベストプラクティスに学べ!」という思考(?)様式には、そもそも「違い」をつくるはずの戦略を阻害し、同質的な競争へと企業をドライブしていくという面があります。しかし、問題はそれ以上に深刻です。安易なベストプラクティスの導入が戦略ストーリーの基盤となる論理を殺し、その結果として戦略ストーリーの一貫性を破壊しかねないからです。
個別の構成要素を首尾一貫した因果論理で結び付け、競争優位へとまとめ上げる。これが戦略ストーリーの役割です。戦略ストーリーはSPやOCの構成要素と競争優位との間に介在するものとして位置付けられます。「違いを作って、つなげる」という二つの戦略の本質のうち、ストーリーとしての競争戦略は後者に軸足を置いています。戦略はwhat、how、when、where、whyといったさまざまな問いかけに答えなくてはなりません。義妖怪の競争構造をひとまず競争戦略の外部にある変数として扱っていますが、どの業界で競争するかという土俵の選択は、文字通りwhereを問題にしています。いつその業界に参入するかというタイミングの選択も重要な問題ですので、これも入れて考えれば、業界の競争構造はwhereとwhenに焦点を当てています。SPは「何をするか」「何をしないか」という活動の選択にかかわる打ち手ですから、ここではwhatが主要な問題となります。典型的にはSPは「自社で内製するのか外部から調達するのか」というようなトレードオフの選択ですから、whichに対する答えといってもよいでしょう。一方のOCは自社にユニークな「やり方」から生まれる違いですから、戦略のhowを問題にしています。これに対して、戦略ストーリーではwhyが一義的な問題となります。SPやOCの一つひとつの違いがなぜ相互につながり、全体としてなぜ競争優位と長期利益をもたらすのか。戦略ストーリーとはこうした因果論理の束にほかなりません。
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