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2010年9月20日 (月)

楠木建「ストーリーとしての競争戦略」(1)

41wpcn5ck1l  以前に、このプログに書き込みしました『メイド・イン・ジャパンは終わるのか』『国際標準化と事業戦略』『技術力で勝てる日本が、なぜ事業で負けるのか』などは、どちらかといえば製品アーキテクチャという“ものづくり”の側面から日本企業の経営をみるものでした。この著作は、これらより一歩引いて、より鳥瞰的に、企業の経営戦略を見ようというものです。

その内容は、ここに書こうとするくらいですから十分なものと思うのですが、それだけでなく、ビジネス書というような枠に留まらず、純粋に読むのが面白いということが特筆に価すると思うのです。最初に目から鱗が落ちるような発見があって、それを読み進めるうちに、豊富な実例とさらなる展開があって、この次はどうなるのだろうと、興味が先へと進んで、あっという間に読み進んでしまう本です。一般の経営書にあるような分かりにくさはなく、経営学の知識がない人でもよく理解できるように書かれています。これは著者が本当によく分かって書いているからでしょう。(当たり前のことにようですが、難しく書かれている本や論文の中には、書いている本人が理解できていないと明らかに分かるのが結構あるように思います。)

これから、私はこのように読んだというのを書きますが、その後で、この著者の語り口が魅力なので、別に引用をピックアップして載せます。これから長くなりますが、お付き合いください。

まえがき

結果として成功したかはともかくとして、戦略として魅力的であるか(著者は感覚的にイケてると言う)、優れた条件とは何かを問うことを目的とする。その優劣を分ける基準として「ストーリー」という視点を取り上げてみせる。例えば戦略のプレゼンテーションには市場環境とかトレンドとか組織体制とかいうような戦略の構成要素が並べられることが多い。構成要素はいわばパーツであり、これらのパーツがかみ合って、全体としてどのような構成となって動いていくのか、というダイナミズムが「ストーリー」ということになる。これを具体的に見ていく。

次においしいところを引用します。

「イケてる」戦略は確かに面白く、もっと聞いてみたくなります。知的興奮を覚えるだけでなく、他人事であるにもかかわらず「その線でやってみようじゃないの!」という気にさせられます。一方で、「イケてない」戦略はからっきし面白くありません。この直感的な優劣は、私の主観的な好き嫌いといえばそれまでなのですが、わりとはっきりした感覚です。戦略の優劣の基準はどこにあるか。優れた条件とは何か。私は自分の感覚を、もっとしっかりした言葉でつかみたいとずっと思ってきました。こうした経験を10年、15年と重ねているうちに、私なりの基準が次第にはっきりとしてきました。それが戦略が「ストーリーになっているか」が見えるか。私がよりどころとして戦略の優劣の基準はここにあります。「ストーリー」と言う視点から、競争戦略と競争優位、その背後にある論理と思考様式、そうしたことごとの本質をじっくりお話ししてみようというのが、この本に込めた私の意図です。この本のメッセージを一言で言えば、優れた戦略とは思わず人ら話したくなるような面白いストーリーだ、ということです。

「戦略」のプレゼンテーションには、「X事業のV字回復戦略」とか「新たなビジネスモデルの創出」とか、元気満々のタイトルがついています。タイトルだけでなく、実にいろいろな要素が盛り込まれています。市場環境やトレンドはどうなっているのか。ターゲット・マーケットとしてのどのセグメントをねらうか。どういう仕様の製品(もしくはサービス)をどういうタイミングでリリースするか。プライシングはどうするか。どういうチャンネルを使うか。どのようにプロモーションするか。どこを自社で行い、どこをアウトソーシングするか。生産拠点はどこに置くか。どういう技術を採用するか。どういう組織体制で実行するのか。業績予測はどのようなものか。実に詳細に検討されています。しかし、これでは「項目ごとのアクションリスト」にすぎません。そうした戦略の構成要素が、どのようにつながって、全体としてどのように動き、その結果、何が起こるのか。戦略全体の「動き」と「流れ」がさっぱりわからないのです。戦略が「静止画」に留まっているといっても良いでしょう。聞いている私が社外の人間で事情に疎いかわかにないのかな、と思うとそうでもなく、社内の人々も、個別のアクションについては議論をするものの、それが全体としてどう動くのかについては、意識してか無意識か、議論の俎上に載せないままやり過ごしてしまいます。本来は「動画」であるはずの戦略が、無味乾燥な静止画の羅列になってしまう。戦略をつくるという仕事が「項目ごとのアクションリスト」を長くしたり細かくすることにすり替わってしまう。「ストーリーがない」「ストリーリーになっていない」とはそういうことです。優れた戦略は、これと正反対のところにあります。戦略を構成する要素が噛み合って、全体としてゴールに向かって動いていくイメージが動画のように見えてくる。全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくる。これが「ストーリーがある」ということです。

戦略を構成するさまざまな打ち手がストーリーとして自然につながり、流れ、動かなければ、そこには何らかの本質的な矛盾や欠陥があったはずです。後知恵といってしまえばそれまでですが、大きな成功を収め、その成功を持続している企業は、戦略が流れと動きを持ったストーリーとして組み立てられているという点で共通しています。戦略とは、必要に迫られて、難しい顔をしながら仕方なくつくらされるものではなく、誰かに話したくてたまらなくなるような、面白いストーリーであるべきです。昔から「儲け話」というような、戦略とは面白い「お話」をつくるということなのです。

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