クリスティアン・ツィンメルマン「ブラームスのピアノ協奏曲第2番」
ブラームスのピアノ協奏曲第2番は、一名をピアノ付きの交響曲といって管弦楽が主体の曲らしい。しかし、この演奏を聴いてみて、そのようなことを感じるだろうか。それほど、この演奏でのピアニストはバリバリ弾きまくっていて、管弦楽より目立ちまくっている。しかも、弾いているピアニストは今では、完璧主義の大家になっているクリスティアン・ツィンメルマンなのだ。
まず、冒頭でホルンの角笛のような響きに乗って悠揚とピアノが入ってくるが、そのあとオーケストラの合奏が続き、改めてピアノがソロで入ってくると、テンポがぐっと速くなり、オーケストラをバックにバリバリと弾き出す。そこで特徴的なのは、左手で弾かれるバスの動きだ。他のピアニストでは隠れていた上昇音形が独立したかたちで繰り返しあらわれると、前のめりのリズムが強調されて、他の演奏に無い推進力を生み出しています。
これが第2楽章に入ると、さらに他の演奏に無い個性を際立たせる。入りのフレーズの速さは特筆もの。オクターブの連続で、ブラームスらしい細部のこだわりがあるので速く弾くのは難しいのだろうけれど、これにはオーケストラも振り回される感じで、ブラームス特有の重厚な響きでは速く動き回れないようで、ピアノについていけないかのようだ。この楽章は冒頭の弾きにくそうなテーマが繰り返し出てきて、オーケストラの重厚な響きに対抗するように音量が求められるためか、彼以外のピアニストは速く弾くことはしないで、じっくり弾こうとしている。その辺のためからか重厚な曲というイメージが出てくるのだろうか。そして、ここでも左手によるバスの音形が目立つ。これは他のピアニストからは絶対に聞こえてこない。辛うじて、この演奏で左手のフレーズの存在に気付いて、他のピアニストの演奏でも、それを探していてはじめて分かるという程度だ。第1~第2楽章を聴く限りでは、ピアニスティックに輝かしいという点で抜きん出ている。この演奏を聴くと、この曲はリストなどにも劣らないヴィルトゥジティに溢れた協奏曲であることが分かる。
しかし、第3楽章に入ると、あのチェロがいかにもブラームスという感じの渋い旋律をひいているとピアノはバックに周り、伴奏をつとめるが、そのあたりやチェロとの掛け合いなどは、味わいが足りない。第1、第2楽章のバリバリのストレート一本勝負で、柔らかなタッチとかちょっとしたルバートのような小技が効いていないので、うまく噛み合っていない。そこで、落ちるのが残念。
このCD、実は、発売になるまでの時間がかかって、録り直しを何度も行ったとか、ミキシング時にかなり操作を加えたとか、ファンの間では噂が囁かれたらしいが、これだけ一貫して、美点と欠点がはっきりとしているような録音というのは、とても珍しい。噂のように何度も録音に手を加えると、目前の欠点が修正されるが、出来上がってみれば可も無く不可も無いような凡庸な結果になるのが落ちだが、これは尖がった演奏として残っている。
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