無料ブログはココログ

« 小川紘一「国際標準化と事業戦略」(6) | トップページ | セルジゥ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー「ブルックナーの交響曲第5番」 »

2010年9月11日 (土)

妹尾堅一郎「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」(1)

9784478009260_1l  私は、小さな産業機械メーカーで事務関係の仕事をしているサラリーマンです。小さな会社なので、大会社なら一つの部署となるような仕事を一人で掛け持ちで担当しています。その中にIRという投資家や株主に対して会社のことを紹介したり報告する仕事をしています。会社の業績だの、会社の経営がこれからどのようにしていくかを、初めての人にも理解してもらうわけです。このプログでは会社への行き帰りの通勤電車の中で、聴いた音楽あるいは読んだ本のことを書いていますが、仕事のためもあるので、ビジネス本も読んでいるわけです。

とくに、私の勤めているのはメーカーなので、この本や「国際標準化と事業戦略」のような本は切実ではあります。

ここ数年、日本の製造業は、とくにエレクトロニクス産業で海外企業の後塵を拝している。これは、日本企業が「技術で勝って、事業で負ける」パターンに陥ってしまったためと考えられる。では、技術だけでは勝てない時代に、事業で勝つには次の3つの要素が三位一体となって適切に行われると考える。

(ア)製品特徴(アーキテクチャー)に応じた急所技術の見極めとその研究開発

(イ)  どこまでを独自技術としてブラックボックス化したり、あるいは特許をとったり、さらにはどこから標準化してオープンに周囲に使わせるかという知財マネジメント

(ウ)  それらを前提にして、一方で「市場拡大」、他方で「収益確保」とを両立させる、あるいは独自技術の開発(インベンション)と、それを中間財などを介した国際斜形分業によって普及する(ディフュージョン)という市場浸透を図るビジネスモデル構築

まず、概念の話で遠回りかもしれないが、「成長」と「発展」の違いから話を進める。「成長」とは、既存モデルの量的拡大のことである。この成長を進めさせるには、「インプルーブメント(改善)」による生産性の向上が不可欠であるモデルを洗練して磨き上げれば、より効能性も効率性も高まり、持続的成長を促す。これに対して「発展」とは、既存モデルとは全く異なる新規モデルへの不連続的移行のことである。これを別の角度からみれば「イノベーション」とも呼べる。イノベーションとは、画期的な新規モデルの創出と普及・定着のことである。

日本企業は従来モデルの磨き上げで世界に冠たる品質とコストを実現した。これが“競争力”の源であった。一方、日本とのモデルの練磨競争で負けた米国は、80年代から準備を始め、90年代に「モデル練磨という競争力モデル」を前提に戦うこと捨てて、「モデル自体を変える」戦略に出た。90年代の日本が負け続けたのは、このモデル変革を真剣に受け止められなかったからに他ならない。日本が、当面の経済不況を脱するための緊急避難的な対策はともかく、中長期的には、“成長のための成長”を捨てて“成長のための発展”を真剣に検討すべきだ。このためのイノベーション七原則が次のもの。

(1) 従来モデルの改善をいくら突き進めても、イノベーションは起こらない

(2) イノベーションは従来モデルを駆逐し、その生産性向上努力を無にする

(3) システム的な階層構造上、常に上位モデルのイノベーションが競争優位に立つ

(4) 下位レベルのモデル磨きは、上位のモデル磨きにとどまる場合が普通だが、ときに上位モデル創新となる場合もある

(5) プロダクトイノベーションのほうがプロセスイノベーションより強い

(6) 同種モデル間の競争はインプルーブメント、異種間の競争はイノベーション

(7) 成長と発展、イノベーションとインプルーブメントは「スパイラルな関係」

企業経営の失敗の多くが、従来モデルの磨き上げか、新規モデルへの移行か、その判断を誤った場合であると言える。ただし、世界の産業においては、従来モデルの練磨で勝つ競争力モデルから、新規モデルへの移行によって勝つ競争力モデルへと移行しつつある。競争力モデル自体が大きく変った。日本の経営者は、この競争力モデルの変化を、まず認識すべきだ。

« 小川紘一「国際標準化と事業戦略」(6) | トップページ | セルジゥ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー「ブルックナーの交響曲第5番」 »

ビジネス関係読書メモ」カテゴリの記事

コメント

いつも興味深く読ませて貰っています。
書かれた文章の前半と後半がくっついているようですね

kishidaさん、どうもありがとうございました。
前半と後半が入れ替わって、変にくっついてしまっていました。
さっそく修正しました。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 小川紘一「国際標準化と事業戦略」(6) | トップページ | セルジゥ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー「ブルックナーの交響曲第5番」 »