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2010年9月30日 (木)

楠木建「ストーリーとしての競争戦略」(10)

昨日、いや一昨日になってしまいましたが、そのつづきです。著者の語り口をご堪能ください。

ストーリーを構想する第一歩としてシュートの軸足を定めなければならないのは、①WTP、②コスト、③ニッチ特化による無競争、の三つのシュートの間にトレードオフの関係があるからです。もちろん①と②を同時に実現できればそれに越したことはないのですが、WTPシュートにつながるパスとコスト低下につながるパスとの間には、あちらが立てばこちらが立たぬの関係があるのが普通です。①および②と③のシュートの間にもトレードオフがあります。「成長を実現しつつ、無競争で利益を出す」というのには無理があります。成長に対するストイックな姿勢が、無競争のニッチを維持する前提条件だからです。

ストーリーとは、二つ以上の構成要素のつながりです。「パスのつながり」こそがストーリーとしての競争戦略の分析単位になります。個別のバスの良し悪しは、それ自体では評価できません。そのパスの有効性は、他のパスとのつながりの文脈でしか決まらないからです。静止画と動画の分かれ目がパスのつながりです。個々のバスは「静止画」にすぎません。パスが縦横につながり、シュートまで持っていけたとき、戦略は静止画から動画のストーリーになります。ストーリーが優れているということは、パスが縦横にきちんとした因果論理でつながっているということを意味しています。戦略ストーリーの評価基準はストーリーの一貫性です。一貫性の次元として、次の三つが考えられます。

・ストーリーの強さ

・ストーリーの太さ

・ストーリーの長さ

今、話を単純にして、XとYという二つの構成要素の間のつながりを考えます。ここでつながりとは、XとYを可能にする(促進する)という因果論理を意味しています。たとえば「量産すればコストが下がる」という因果関係は、規模の経済という論理に基づいています。ストーリーが強いということは、XがYをもたらす可能性の高さ、つまり因果関係の蓋然性が高いということです。「量産すればコストが下がる」という因果関係は、「テレビCMをやればWTPが上がる」という因果関係よりも、一般的にいってより確からしく、したがって、より「強い」ストーリーだといえるでしょう。もちろん本当にそうなるかどうかは、やってみなければわからないのがビジネスの常なのですが、論理的な蓋然性でいえば、全社のほうが強そうです。

優れた戦略の二つ目の条件は、ストーリーの太さです。「太さ」とは、構成要素間のつながりの数の多さを指しています。一石で何鳥にもなるパスがあれば、その分ストーリーは太くなります。

ストーリーの長さとは、時間軸でのストーリーの拡張性なり発展性が高いということを意味しています。反対に、パスの間に強いつながりがあっても、将来に向けた拡張性がなければ、それは「短い話」で終わってしまいます。ここでいう話の長さというのは、ある戦略を説明するときに要する物理的な時間の長さを意味しているのではありません。「くどくど説明しなければいけないような戦略は成功しない」というのはそのとおりです。論理があいまいで、説明にダラダラと時間がかかってしまうという意味での「長い話」が良くないのはいうまでもありません。論理がきちんと突き詰められていれば、話はシンプルになります。その意味での「短い話」はむしろ歓迎です。ここでいう短い話とは、ストーリーを構成する因果論理のステップが少ないということを意味しています.逆に、長い話とは、因果論理が前へ前へとつながっていき、ストーリーに拡張性や発展性があるということです。「それで、どうなるの?」という問に対して、次々と答えが繰り出される、これが話の「長さ」です。パスの間にある種の好循環を生み出す論理が組み込まれているほど、ストーリーは「長く」なります。

そこに一貫したストーリーかあるかどうか、これが優れた戦略の条件だという話をすると、実務家の方々、特に成功した経営者の方々からは決まってある疑問が返ってきます。それはこういう反応で「ストーリーとしての競争戦略というのはあくまでも後知恵だ。後から見ると、あたかもよくできたストーリーが初めからあったように見えるけれども、実際はその場その場の状況に対応してさまざまな打ち手を繰り出していたというのが経営の現実だ。最初からストーリーがあったわけではない」。そのとおりです。ビジネスの場合、脚本もキャスティングも大道具も小道具もすべてが完全に準備されてから幕が上がるわけではありません。ビジネスはやってみなければわからないことが多過ぎます。ごく粗い脚本で、暫定的なキャスティングで、舞台装置の準備もそこそこに、まずはやってみよう…というスタンスで戦略が実行に移されるというのがむしろ普通でしょう。初めからストーリーが出来上がっているわけではありませんし、その必要もありません。しかし、それでも戦略はストーリーだというのが私の見解です。

マブチとサウスウェストにはいくつかの共通点があります。第一に、いずれも秀逸でユニークな戦略ストーリーで成功した企業です。第二に、しかし、いずれも初期の段階から完成されたストーリーを持っていたわけではありませんでした。第三に、戦略ストーリーをつくる大きなきっかけとなった打ち手に、フリーハンドでの合理的な選択の結果というよりも、当時の状況からして「仕方がなかった」「そうせざるをえなかった」という面がありました。「災い転じて福となす」とか「怪我の功名」といってもよいでしょう。最初から完璧なストーリーの全体像を準備万端整えて、それを忠実に実行した結果成功したのでないということは明らかです。私の話を聞いた多くの経営者が、「最初からストーリー」があったわけではない…」と疑念を呈するゆえんです。この種の疑念に対する私の答えは、「半分は正しいけれども、半分は間違っている」というものです。最初からストーリーの全体が細部まで出来上がっていたかというと、確かにそんなものはない。しかし、そうだとしても優れた経営者はごく初期の段階からストーリーの原型をつくっている。そして、個別の打ち手がストーリーにフィットするのか、ストーリーの文脈でどのような意味を持つのかを突き詰めて、新しい打ち手を繰り出したり、これまでの打ち手を修正している。つまり、初めから完成されたストーリーがあったわけではないけれども、個別の構成要素をバラバラに扱わずに、ストーリーとして仕立てていこうという意識と意図が戦略構築のプロセスに一貫して流れています。ストーリーそのものはなくても、戦略の「ストーリー化」という思考様式は初めからあった、というわけです。

こうしたストーリーで成功した企業であっても、ごく初期の段階では、ごく単純なストーリーの原型があるだけです。完成されたストーリーが初めから出来上がっているわけではありません。場合によっては、ストーリーの原型すらなく、ただの思いつきや成り行きでとりあえず利益が出そうなことに手を出してみたいという、「前ストーリー段階」からビジネスが始まることも少なくないでしょう。ビジネスを実行する過程で企業はさまざまな機械や脅威に直面します。そのうちいくつかは、戦略ストーリーの構築や進化によっての重要なインプットなり契機になります。こうした機会や脅威との相互作用を経て、戦略ストーリーは徐々に練り上げられていきます。構築途上の段階では、戦略ストーリーの原型と比べていくつかの新しい要素が取り込まれています。ここで大切なことは、ストーリーを進化させるインプットは周到な事前の計画やそれに基づく合理的な選択の結果として表われるわけでは必ずしもありません。戦略には不確実性がつきものです。偶然に生じたハプニング的な事象も戦略に大きな影響を与えます。企業がなぜそのアクションをとったのか、その時点での直接的な理由を聞いてみると、実は偶然の成り行きだったり、たまたまぶち当たったチャンスだったり、資源の不足を克服するための苦肉の策だったりするのがむしろ普通です。しかし、たとえそうした偶然のチャンスや自然な成り行きや当座の打つ手がストーリー構築の契機となったとしても、そうした個別の要素の持つ可能性や意味をストーリーの文脈で考え、それらを素材を使いながら一連の流れを持ったストーリーに仕立てようという思考様式を一貫して持っていたはずです。そうでなければ、そのときそのときで現われる脅威に場当たり的に「反射」するだけで、いつまで経ってもストーリーは生まれません。また、あるときにストーリーの原型を手に入れたとしても、その後次々に現われては消える機会にやみくもに手を出したり、脅威に直面したときにその場しのぎの打つ手に終始するだけでは、ストーリーは練成できません。遅かれ早かれストーリーの一貫性が破壊され、長期利益は獲得できなくなります。優れた戦略家は、機会や脅威を受けてある特定のアクションをとるときに、それがストーリー全体の文脈でどのような意味を持つのか、それを取り巻く他の構成要素とどのように連動し、競争優位の構築や維持にとってどのようなインパクトを持っているのかを深く考えます。ストーリーという視点がもたらす洞察を基準にして、新しい要素を取り込み、その一方でこれまで手がけていた打ち手を排除する、こうした微調整の繰り返しで戦略ストーリーは徐々に練り上げられていくものです。

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