楠木建「ストーリーとしての競争戦略」(8)
昨日まで三回も引用を続けましたが、それほど著者の語り口には惹かれるということです。
第3章 静止画から動画へ
いよいよ、本編です。ここからはこの著作を存分にお楽しみください、といっても、ここでは面白いところは出し惜しみします。これは著作に触れて堪能して下さい。例えば、スターバックス・コーヒーとかアマゾンとか実際の企業が、実例となって戦略ストーリーの各要素が説明されます。その語り口もあわせて、各企業のストーリーはワクワクするほど面白い。マブチモーターやベネッセ、サウスウェスト航空というような実例に即して、ストーリーの構成について説明したり、コンセプトの違いを自動車メーカーの戦略の違いから説得力ある説明をしたりと、楽しみながら読み進めることができます。
ストーリーは、業界の競争構造、ポジショニング、組織能力に続く第4の利益の源泉となると、著者は言います。以前、戦略をサッカーになぞらえて説明していましたが、ストーリーの場合は、同じサッカーをするにしても他社と違うパス回しの流れを確立すれば、競争優位を獲得できるということになります。ここで注目すべきは、スーパースターがいるというような個別の構成要素よりもパスのつながりの方です。これが、ここでの競争優位の正体なのです。
このようなストーリーを実際にビジネスの文脈で組み立てるときに柱となるものとして、次の5つをあげ、これらを準じ説明していきます。ここが本書の核心部分といってもいいと思います。ただし、あくまでもストーリーは動画としての流れであることが前提です。
・競争優位(Competitive Advantage)ストーリーの「結」…利益創出の最終的な論理
・コンセプト(Concept)ストーリーの「起」…本質的な顧客価値の定義
・構成要素(Components)ストーリーの「承」…競合他社との「違い」
SP(戦略的ポジション)もしくはOC(組織能力)
・クリティカル・コア(Critical Core)ストーリーの「転」…独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素
・一貫性(Consistency)ストーリーの評価基準…構成要素をつなぐ因果論理
この要素が時系列順になっていないことに注意して下さい。これはストーリーを組み立てるときの順番となります。ということは終わりから組み立てるわけです。しかも、終わりは決まっています。前章で見た戦略の目的です。つまり「持続的な利益の創出」というハッピーエンドです。サッカーで言えばゴールです。「結」はゴールを決めるシュートで、いかにシュートにつなげていくかが、その課題です。
著者は利益をあげるためには、コストを下げるという方向と顧客が支払いたいという水準が高まるという二つの方向があるといいます。サッカーの例でいえば、シュートの軸足をどこに置くかだ、といいます。コストダウンに進めるか、高付加価値で勝負するか、ニッチに逃げるか。この違いは、シュートへの持っていき方の違い、つまり、シュートに向けたパスの違いです。
ここでパスの流れの重要さに辿り着きました。ひとつひとつのパスの有効性、他のパスにうまくつながることですから、一つを取り出して良し悪しを論ずることはできません。他のパスとのつながりの文脈で捉えるわけです。これを著者は因果論理と呼びます。この因果論理が通っているためには、次の三つの次元で考える必要があると言います。
・ストーリーの強さ
・ストーリーの太さ
・ストーリーの長さ
実務面からいうと、このような戦略は当初から完璧に出来上がっていて、このとおりに戦略を実行するということはありえません。実際には、シンプルな原型のようなものを経営者がイメージしていて、実際の場面で個々の打ち手をこの原型のイメージとすり合わせているうちに、ストーリーが出来上がってきたといいます。おそらく、それはその経営者のコアな部分から発したもの、その人の経営の原点のようなものではないでしょうか。
その点で、「結」の次に考えるべきものとして、コンセプト、つまり、「何をするのか」で、自身を見つめることです。
この後、明日から、またまた引用に、お付き合いください。
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