あるIR担当者の雑感(4)~アナリスト・プラットフォーム
今日、ジャスダックでアナリスト・プラットフォームの説明会に行ってきました。アナリスト・プラットフォームというのは、ジャスダック証券取引所が大阪証券取引所と合併することを機に、新たに上場会社向けに始めるサービスのひとつです。ジャスダックのような新興市場という中小の企業は東証一部に上場している大企業と違って投資家の知名度が低く、また企業を投資家に紹介するアナリストと呼ばれる人たちの目にも止まりにくいため、ジャスダックで企業に関するレポートをつくりホームページに載せることで、世に広く知らしめようという制度です。
具体的には、ジャスダックと契約したリサーチ会社などのアナリストが上場している会社を取材して、紹介レポートや決算時等に定期的なレポートを書いて、ジャスダックのホームページに載せる。また、レポートを書いてもらった会社も、そのレポートを会社紹介などに活用できるというものです。
説明会の出席者は多かったし、利用する会社は多いのかもしれません。いま、日本の株価は低迷しています。とくにジャスダックのような新興市場の株価の落ち込みは激しいので、なんとか市場が活性化させたいということから、何かやってみようという姿勢は、歓迎すべきことだと思います。とくに、小さい会社ではIRに手間をかける余裕がないので、証券取引所が積極的に仕掛けようというのは、ありがたいです。
しかし、しかしです。ここで作成される上場会社のレポートはジャスダックが契約したリサーチ会社などのアナリストが書くことになります。いままで、証券会社であれ調査会社であれ、そこのアナリストが企業レポートを書いていたのは、基本的にはお客さんである投資家に対して書いていたわけで、レポートを書く対象が明確だったと思います。そして、作成したレポートに対する責任を負っているはずです。だから、企業に対して厳しい意見も言えたと思います。例えば。企業のちょうちん記事を書いていればお客さんである投資家から信用されなくなる、というように。だからこそ、投資家はそれを参考に投資の検討ができたと思います。
ところが、今回のアナリスト・プラットフォームは、上場会社が手数料を支払い(ジャスダックも補助金を出してくれます)ます。つまり、企業の依頼に基づいてレポートを書くことになります。これで、果たして投資家に信頼されるようなレポートをかけるのか、というのが問題と思います。もちろん、アナリスト個人の職業的な良心は尊重しますが、企業が金を出すことで、アナリストの手足を縛ることになってしまわないか、です。そして、第二に問題だと思うのは、第一の点と矛盾するようですが、企業は金は出すが口は出せないという点です。企業の依頼によってアナリストが作成したレポートに企業は口出しすることは、できないそうです。これって、取引の常識から考えて、おかしいと思います。仮に、新聞社が取材にきて記事を書かれて、その内容に不満があっても、公開の抗議はできても、強制的に直させることはできない。しかし、新聞紙にお金を払って広告を出す時には、事前に内容を確認し直すものは直して掲載するわけです。そういうのを、私は常識と思いますが、アナリスト・プラットフォームは、このどちらでもありません。これは、何も企業に都合悪いレポートを書かせたくないということではなくて、レポートの中に事実誤認があっても直せないことや、また、アナリストが手を抜いたレポートを書いても、やり直させることはできないことにもなります。私もIRの業務を担当してきて、アナリストの取材をうけたことも少なくありませんが、彼らは自らの責任でレポートをするため、取材には真剣勝負のようなところがありました。彼らも、投資家に対して有意義な情報を出していかなければいけないわけです。それで糧を得ているわけですから。しかし、アナリスト・プラットフォームの取材には、はたしてそういう緊張感があって、レポートが書かれるのか、今のところは分かりません。
新たなジャスダックは10月中旬からスタートになります。このアナリスト・プラットフォームも、それと同時にスタートするそうです。まず、アナリストが企業を取材してレポートを作成するのに、しばらく時間がかかるというので、年明けくらいからボツボツ掲載が始まるということなので、まずは、それを見てから、参加するかどうか決めても遅くないと、個人的には思いました。
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