楠木建「ストーリーとしての競争戦略」(15)
第5章 「キラーパス」を組み込む
たぶん、著者はこのストーリーとして戦略ということのキーとなるものとして真打、トリに持ってきたのでしょう。起承転結の「転」にあたる、サッカーでいうとキラーパス、著者は「クリティカル・コア」といいます。
このクリティカル・コアには二つの条件があるといいます。
第一には、他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っているということ、構成要素のつながりの中核となる結節点の役割を果たしているということです。そのため、これが有効に機能すれば「一石で何鳥になる」打ち手になります。
第二には、「一見して非合理に見える」ということで、いうなれば、部分最適と全体最適の問題です。単独に打ち手として取り出してみれば、競合他社には非合理に見えるけれども、ストーリー全体の文脈に当てはめてみれば合理的に変じる。
このようなことを、筆者の得意技ですね。スターバックスコーヒーを実例にして詳細にじっくりと説明してくれます。ほかにも、マブチ・モーター、デル、サウスウェスト航空、アマゾン、アスクルといった豊富な実例から説得力ある議論を展開してくれます。上の二つの条件が具体的にどのようだったかというのか、次々に示されるとリアルに理解が進みます。何度も言うようですが、興味を持った方はぜひ一読を進めます。ただ、実務にかかわる人ならば、読んでいるうちに自分の会社のことを、どうしても考えてしまうことになると、思います。
第二の条件である「一見非合理」は、よく似ているけれど「先見の明」とは違います。ストーリーとしての戦略は外部環境による優位性から一歩進んで、競争優位を勝ち取るものというのが、第一章や第二章で述べられてきたことです。ですから、外部環境の変化に依存するだけなら、何もストーリーなど構築する必要はないわけです。
そして、面白いことに競合他社がクリティカル・コアの合理性に気がついて、これを模倣しようとすると、ストーリー全体を模倣しなければ意味がないことになりますが、どうしてもコアの部分だけを取り出して中途半端な模倣に奔ればかえって、従来の戦略の阻害要因となり自滅を招く結果になるのがオチだと言います。これを渋谷センター街のファッションをまねしようとした田舎のコギャルがみっともない姿に成り果てるプロセスを使って分析しているのが面白い。
この後、第六章では今までの説明のまとめとして、ガリバーを例にとってストーリーの読解を実際にやってみせてくれますが、これは原本で味わって見てください。
今回は、長くなりました。それだけ、私も気に入っていたので、気合が入ってしまいました。お付き合いいただいて、ありがとうございました。
あとは、この章の引用を2~3回続けます。
本書は、このあと見事なケース分析を行って、最後にストーリーの骨法という結論に至ります。ここでは、触れません。興味のある方は、くどいようですが本書を直接、読むことをおすすめします。
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