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2010年10月 7日 (木)

楠木建「ストーリーとしての競争戦略」(17)

続きです。あと2回くらいで終わりです。楠木さんの語り口をご堪能下さい。

単に競争優位を獲得するにとどまらず、どうやってそれを持続的なものにしていけるか。これまでも多くの戦略論がこの問に答えようとしてきました。この章のクリティカル・コアの話をこれまでの話と重ね合わせると、競争優位の階層を描くことができます。競争優位のあり方には五つの異なるレベルがあり、持続性の低いものから高いものへと階層を成しています。レベル0は「外部環境の追い風」で、単に「景気がいいから儲かっている」というもので、利益の源泉が丸ごと外部の一時的な環境要因に依存しています。景気が悪くなれば利益が出ない状態に逆戻りしてしまうわけで、競争優位以前の段階です。レベル0では定義からして持続的な競争優位は期待できません。一つ上のレベル1は「業界の競争構造」に利益の源泉を求めると言うスタンスです。世の中には利益が出しやすい構造にある業界もあれば、もともと出にくい構造に置かれている業界もあります。ただし、利益性の高い魅力的な業界は誰にとっても魅力的ですから、他社もそうした業界にはぜひとも参入したいと考えるはずです。一時的に魅力的な競争構造にある業界でも、他社が次々に参入してしまえば荒らされてしまいます。それこそよっぽど「先見の明」がなければ、業界の構造だけに依拠して持続的な競争優位を確立するのは難しそうです。このようにレベル0とレベル1は、企業の競争戦略というよりも、その企業を取り巻く外部要因に注目した論理にとどまっています。レベル2移行が競争戦略の出番となります。レベル2は個別の構成要素に競争優位を求める経営です。第2章で詳しくお話したように競争優位の構成要素にはポジショニング(SP)と組織能力(OC)という二種類があります。いずれもそれなりに競争優位を持続させる論理を含んでいます。個別の要素を超えて、ストーリー全体に持続的な競争優位を求めるのがレベル3です。要素を個別にまねすることはできても、それが複雑に絡み合った全体をまねするのはずっと難しくなるという考え方です。第3章で強調したように、このレベルでの競争優位の源泉は、個別の要素の中にあるのではなく、ストーリーの一貫性が生み出す交互作用効果にあります。構成要素の間には、相互依存や因果関係が張りめぐらされているので、いくつかの要素をまねしても、全体がきちんとかみ合って交互効果を起こさなければ、同水準の競争優位は達成できません。最上位にあるレベル4の戦略は、構成要素の交互効果をもたらすようなストーリーを構築することにとどまらず、「一見して非合理」なキラーパスにそのストーリーの一貫性の基盤を求めます。ここでの持続性の源泉は、そもそも競合がまねしようという意図をそもそも持たないという「動機の不在」と「意識的な模倣の忌避」て゜した。こうして比較すると、階層の上位に行くほど、競争優位の持続性の背後にある論理が強力になっていることがおわかりいただけると思います。競争優位の階層にある五つのレベルは、どれか一つ選ぶというものではなく、積み重なる関係にあります。利益ポテンシャルが高い業界で、明確なSPと強力なOCを持ち、それが一貫したストーリーを構成し、キラーパスが利いていて、おまけに景気がいいとくれば、五つすべてが満たされており、最強です。

考えれてみれば、ある線戦略がもたらす競争優位が長期にわたって持続するということは不思議なことです。情報や知識の移転が簡単でなかった時代はいざ知らず、これだけ情報技術が発達し、経済がグローバル化した今日では、国や地域や企業を超えたヒト、モノ、カネ、情報の流動性は飛躍的に増大しています。しかし、現実を見ると強い企業はかなりの長期にわたって強い。四方八方から戦略を注視され、模倣の脅威にさらされながらも、5年、10年、15年と競争優位を持続しています。これはなぜでしょうか。なぜ企業間の差異が長期にわたって維持されるのでしょうか。私はこの問題についてずっと強い関心を持ち、持続的な競争優位の正体についていろいろ考えてきました。「ストーリーとしての競争戦略」という視点に立てば、これまで明示的もしくは暗黙のうちに想定されていたものとは異なる、従来見過ごされていた論理があるのではないかと考えるようになりました。今、競争優位を持ち、高い業績をあげている企業A社があるとします。A社の競合企業B社はA社になんとか追いつこうとしています。B社はA社の成功の背後にある戦略に関心を寄せ、その強みを手に入れるためA社の戦略を模倣しようとしています。なぜA社が競争優位を持続するのか。先にお話した競争優位の階層でいうレベル2までは、A社によって「防御の論理」を想定しています。つまり、B社はA社の戦略を模倣しようとするのだけれども、そこにいくつかの障壁があるので、完全にはまねしきれない。だからA社の競争優位が持続するという論理です。このような「競争優位を防御する」という論理では、A社にとっての戦略の防御(B社にとっての模倣の障壁)となりうるものには、さまざまな種類があります。A社が先行者優位に基づいて参入障壁を固めているため、B社がその業界に参入すること自体ができない。これはレベル1の防御の論理です。異なるポジショニングの間にはトレードオフがあるので、B社がA社の戦略を模倣するのはそう簡単ではない。一方のOCに注目するならは、A社が保有する技術をパテントで専有してしまえばB社は対価を払わなければ手に入れられませんし、A社がノウハウの密度が高いものづくりの能力を構築していれば、B社は簡単には追いつけません。結果的にA社の競争優位は維持されます。いずれにせよ、これらはいずれも競争戦略の障壁を高めようとする防御の論理です。しかし、戦略ストーリーの交互効果がもたらす競争優位をよくよく考えれば、競争優位の階層のレベル3やレベル4になると、こうした防御の論理ではなく、むしろ「自滅の論理」とでもいうべき質の異なる論理が浮かび上がってきます。つまり、B社がA社の戦略を模倣しようとするところことそれ自体がB社の戦略の有効性を低下させ、結果的にA社とB社の差異が増幅するという論理です。B社はA社に追いつこうとして戦略を模倣しようとします。しかし、戦略をまねする過程でB社に「奇妙なこと」が起き、A社に追いつけないどころか、当初の意図に反してかえってA社との距離が広がってしまうという成り行きです。模倣しようとすること自体が差異を増幅するという論理は、結果として起こるB社の「敵失」や「自殺点」がA社に持続的な競争優位をもたらしていると言う考え方です。B社はA社に追いつこうとして、主観的には合理的な模倣行動をとるのですが、実際はその過程で自らのパフォーマンスを低下させてしまう落とし穴に陥ります。自滅の論理では、B社はA社との距離を詰めてくるどころか、むしろ当初よりも戦略の差異やパフォーマンスの格差は拡大することになります。つまり、A社が意図的に防御しなくても、B社が勝手に遠ざかっていくというか、「自滅」してくれる。その結果として、A社の競争優位が持続するという論理です。

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