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2010年10月 1日 (金)

あるIR担当者の雑感(5)

数日前にも書きましたが、第2四半期の説明会に向けて準備を始めているところです。で、今、一番悩んでいるのは、会社紹介のところです。私の勤めている会社は製造業向けの産業機械メーカーなので、その業界以外では無名に近いし、その製品そのものも一般に馴染みのないものです。だから、決算説明会といえども、どのようなことをやっている会社かというのを、説明するなり、説明資料を用意するなり、しておく必要があります。

だけど、それだけなら「会社案内」があるのではないか、と思われるでしょう。今なら、上場している会社ならば、綺麗に印刷された冊子の「会社案内」があるでしょうし、私の勤め先にもあります。例えば、もし営業マンが売り込みに来て、まず会社の紹介として「会社案内」そのままの説明をしたとして、その営業マンを一発で信頼できるでしょうか。というと酷かもしれません。では、最近、ある会社の若いIRもやっているという人と話す機会があったのですが、その人は自分勤めている会社を「会社案内」を暗誦するかのように、きちんとした紹介をしてくれました。云わく、何とか事業部と何とか事業部があって売上高がどうでというように丁寧に話してくれました。しかし、その人の会社は洗剤をはじめとした家庭用品のメーカーで、私などにはヒットした洗剤の名前を上げて、これ売っている会社ですとでも話してくれた方が、ずっとその会社を身近に感じられたし、私の印象として分かったという気持ちになれたと思います。その若い人にも、さっきの営業マンにしても、この人たちは押し着せを暗誦しているだけで、自分の言葉で語っていないのです。要するに紋切り型としてしか聞こえないのです。ということは、自分の会社に対して暗記する程度でいいと思っていることにもなります。実際には、ウチの会社、実は…、というのもあるはずです。それが実感できていれば、紋切り型には終わらないはずです。この人たちが、自分の家族を他人に紹介する時に

紋切り型になるのでしょうか。これが悩んでいる理由の第一点。

第二点は、今、このプログで続けて掲載している「ストーリーとしての競争戦略」の内容とも関連します。その中で取り上げられていた会社の例でいうと、サウスウェスト航空。格安航空の代表的な会社です。この会社は、創業のはじめから他の有力な航空会社と違う事業の捉え方をしていたといいます。「誰に対して」「どのようなサービス」を提供することでカネを稼ぐのかという、いわば会社の基本的な認識の点で、例えばノースウェストやデルタのような有力な航空会社と違っていて、それが会社の戦略の違いとなって現われたと言います。これは本を読んでいただきたいのですが、ちょっとだけいうと、サウスウェスト航空は自らを「空飛ぶバス」と位置付け、そういう基本認識の違いから、サウスウェスト航空はライバルを航空会社ではなくてバス会社に置いたそうです。バスから機内食のサービスはないし、席の予約がなくても飛び乗りができる。料金も、バスが基準。として、具体的戦略が進んだそうです。だとしたら、会社が自分自身を紹介するのは、会社の事業戦略やその結果としての実績を語ることの根底をなすことにならないか、思っているからです。それは、経営方針だから、トップが決めることだ、という意見もあるかもしれません。しかし、実際に動くのは従業員で、かれらの行動や発想の根底にも暗黙のうちに、本人は意識してか、無意識にか、この会社はこうだというのがあるはずです。とくに、日本の会社はトップの指令で、というより全体のコンセンサスで動く傾向が強いからということもあります。

こんなこと、IRでやるの?という疑問があると思います。(これって、ちょっと業界の突っ込んだ議論になりそうですね)私は、IRでも、あるいは、IRだからこそ、できる、と思っています。どうこうことかというと、まず、会社の中で、こんなことをやろうとする人はいないだろう、また、やらなくてはならない部署はないだろうということ。この裏面になると思いますが、IRという業務が、端的に言えば、その他の仕事、経理、財務、人事のようにテリトリーが明確に定められていない、定められるほど定着していない業務担当だからやってしまえる(大企業では別でしょうが)ことがあります。また、外に向かって情報開示、つまり、自らを開くということは、突き詰めれば、その自らとは何かということに行き着く、と思うからです。例えば、浩瀚な「アイデンティティ」という概念。これを心理学で導入したEHエリクソンの主著は邦題で『自他同一性』と訳されています。

そのようなことを考えていると、決算説明会でもちろん数字を開示するのは当然ですが、その数字が出てくる背景のおおもとのひとつが、このようなことにあるのではないか。

まあ、作業が捗らない言い訳で、こんなことを弁解にしているというのが、実態なのかもしれません。

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