河合忠彦「ホンダの戦略経営」(2)
それでは、分析の結果としてホンダの「新価値創造型」新製品開発モデルの特徴とはどのようなものなのでしょうか。それは、単純化すると次の3点に集約できるでしょう。
① 開発リーダーをはじめとするチーム・メンバーの主体性、自律性を最大限重視して、そこに新価値創造的コンセプトのアイディアの源泉を求める。
新価値を実現する上で製品コンセプトが果たした役割が極めて大きかったと言えますが、開発チームに当初に提示される開発要件はきわめてシンプルなもので、リーダーをはじめとしたチームの裁量が大幅に委ねられています。そこで、かれらは統計調査等の客観的な市場分析よりも主観を先行させてコンセプト理念を固めていきます。と言っても客観的側面を全く無視するというのではなく、まず消費者の言動を観察し、自己の価値観にもとづいてその潜在的ニーズを“主観的に”捉え、それにもとづいて基本コンセプトのアイディアを形成する、次いで、そのアイディアに自身の調査や他者の評価などによる“客観的”テストを加えて彫琢していく、というものです。そして、主観重視と密接に関係しているのが、「理念型方法」の採用です。それは、観察した現実からターゲットするユーザー層と彼らが欲するであろうニーズ(価値)の集合をひとつの理念型として明確化し、それを満たす製品機能の集合を、そのどれも欠かさず実現しようとする方法です。そして、これらのコンセプトの基礎にはホンダの得意技への強い信頼や確信があったことです。
② そのようなアイディアはしばしば関連組織との間にコンフリクトを引き起こすが、開発リーダーはさまざまな方法でそれを克服する。
③ 組織は、①②に貢献するように、できるだけ柔軟に運営し、制約はそれらの行き過ぎをチェックするに止める、より具体的には、新価値創造を重視し、そのためのチャレンジを促進し、少なくともそれに対して寛容な組織文化・風土の醸成・維持に努め、実際のチャレンジが不首尾に終わった場合も寛容な処遇制度を整備する。
開発リーダーはコンセプトのアイディアを自ら創出し、プロジェクトを主導するわけですが、彼らの新製品開発に対するスタンスは、新価値創造が社会に対するホンダの使命であり、それを実現するのがホンダに対する自分の使命であるという使命感であり、それを実行に移すのに必要な何らかの能力を有するということになります。このような使命感や能力を生み出す組織的な仕組みが、分権的で柔軟な組織運営であり、開発リーダーへの大幅な権限委譲であり、革新及びチャレンジ志向の組織文化・風土だと言えます。
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