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2010年10月10日 (日)

藤本隆宏「能力構築競争」(2)

昨日の続きです。

筆者は、日本の自動車産業のものづくりシステムは「創発的」に形成されたと言います。トップダウンで計画的に作られて面以外に、当事者が事前に思い描いていた計画や意図とは違う形で出来上がってしまったところがある、と言います。結果として競争力を持ったというと見も蓋ものないですが、それだけに当事者ですら、その全体像をつかむことが難しく、ましてや競合企業にとっては非常に掴み所のないものとなったと言います。

トヨタの場合、創業者がそのようなビジョンを持っていたものの、そのビジョンを頼りに暗中模索や試行錯誤を繰り返した結果と言えるのではないか。それでも、当時の国内状況の制約からやむなく選択したことが、後にプラスに働いた「怪我の功名」もある。例えば、①経営資源が不足する中で生産量成長を余儀なくされたため、結果的に効率的な分業関係が形成された。(社員を増やせないことが、過剰分業の回避につながった。対外的には部品企業の活用が進んだ。設備投資を抑え、既存設備の効果的活用を学習した。)②国内市場の成長がモデル多様化を伴わざるをえなかったために、結果的にフレキシブルな生産システムが構築された。(小ロット生産を余儀なくされた。新製品開発の効率化を常に迫られた)③資本の慢性的な不足が、過剰技術の選択を回避する効果を導いた。

しかし、同じような状況はトヨタ以外のメーカーにもあり、「怪我の功名」の可能性はあったはずなのに、トヨタだけが抜きん出て高いものつくり能力を形成したのは、なぜか。筆者は、トヨタには「怪我の功名をきっちり活かす能力」すなわち、進化能力があると言います。そのような進化能力の実態は何か、どこから来たものなのかについて、筆者は「心構え」だと言います。企業が創発過程そのものを完全にコントロールすることはできないとしても、組織の成員が日ごろからパフォーマンス向上を志向する持続的意識を保ち、何事か新しいことが起こった時、「これはわれわれの競争力の向上に役立たないだろうか」と考えてみる思考習慣を、従業員の多くが共有していることが、その組織の進化能力の本質的な部分であるようだ。というのが筆者の言いようです。

この後で、欧米メーカーのキャッチアップや日本メーカーの海外工場建設などに伴う、ものづくりの修正について言及がなされますが。「心構え」というのが、最終結論ということでしょうか。

で、これって、鶏が先か卵が先かの、どっちかの一方のようなものですよね。これまでの分析や検証が大変なことで、膨大なデータを解析してきた筆者の労苦を考えると頭が下がる思いがします。しかし。この宙ぶらりんのような結論ですか?ね。立派な結論を期待するわけではないのですが。でも、実務家が読めば、こんな結論を出すために、こんなに苦労したの?と言われても、仕方がないと思います。著者への失礼は重々承知しています。しかも、検証もされていないでしょう。この結論は一種のオールマィティな方便としても使えるので、日本のものづくりは全部「心構え」で語れてしまう危険もあるじゃないですか。

ただし、取り上げられている項目数や情報量は多いので、自動車産業のものづくりについての広範な知識が欲しい人には、とても便利な本であると思います。私からは、いい意味でも悪い意味でも教科書というか、著者が自分の考えようとしていることを十分にまとめられていない。単純にページをめくる喜びが薄い、食い足りなさが残る本でした。

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