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2010年10月 8日 (金)

楠木建「ストーリーとしての競争戦略」(18)

18回にもわたる長いものとなりました。楠木さんの語り口をご堪能下さい。本書は第6章で中古車買取のガリバーをケースとして取り上げた具体的な分析、最後のストーリーとしての戦略の骨法というまとめが残されていますが、実際に手にとってお読みになることを薦めます。

優れた戦略ストーリーの競争優位の本質は交互効果にあるので、一見してすぐにわかるような派手な構成要素は必ずしも含まれていません。そのため競合他社はしばらくその優位に気づかずにやり過ごします。しかし、そのストーリーの交互効果がフル回転し、いよいよ競争優位を発揮するようになると、結果としてもたらされる高いパフォーマンスは他社の注目を集めるところとなります。他社はこれこそベストプラクティスとばかりにその戦略を模倣しようとします。さまざまな情報を収集し、分析し、コンサルタントの助言も活かして、成功しているストーリーの構成要素を洗い出します。分析してみると、出てきた構成要素の多くのものはわりと簡単に自分のところでもできそうなことですし、お金を出せば市場を通じて手に入れられそうに映ります。そこで、他社は、次から次へと自分の戦略にそれらの要素を導入します。しかし、競合他社はオリジナルのストーリーが内包していた交互効果の妙については十分に理解していません。場当たり的に戦略を模倣しても、オリジナルの戦略の競争優位の本質であった交互効果は発揮できません。戦略が不全をきたし、かえってちぐはぐなことになります。「聡明にして間抜け」というわけです。これまでの戦略の一貫性や強みも破壊され、パフォーマンス低下の憂き目に遭うという成り行きです。この間、優れた戦略で成功している企業は何をしていたのでしょうか。競合他社の動きに反応して防衛策をとったわけでも、特段の戦略変更をしたわけではありません。オリジナルのストーリーにせっせと磨きをかけていただけです。気づいたときには、競争他社が勝手に奇妙なことを始め、パフォーマンスを低下させています。戦略ストーリーが模倣されるどころか、かえって競争優位が確固たるものになるという次第です。

戦略の競争優位が持続する論理として、模倣の障壁による「排除の論理」と競合他社の「自滅の論理」があるというお話をしてきました。ここで言いたかったことは、前者に比べて後者の論理のほうが、持続的な競争優位の源泉としてより強力だということです。戦略ストーリーがその流れの中で交互効果を発揮できれば、他社はそう簡単にはまねできません。しかし、この競争優位の階層でいうレベル3の段階では、交互効果の複雑性が戦略模倣の障壁となっているという話で、排除の論理にとどまっています。しかし、さらに時間軸を延ばして競合他社の反応を考えてみましょう。優れた戦略ストーリーが高いパフォーマンスを出し続けていれば、当然のことながら競合他社はよりいっそう強い関心を持つはずです。なんとかして自分たちも、その強みを手に入れようとするかもしれません。ここでクローズアップされるのが自滅の論理です。キラーパスをテコにしたレベル4の競争優位の持続性は、排除の論理よりもむしろ自滅の論理に依拠しています。優れた戦略ストーリーを徹底的に分析し、それを構成している要素を手に入れようとする自体が、追いかけてくる競合他社の側で構成要素の過剰を引き起こし、結果的に戦略不全に陥ります。繰り返しますが、オリジナルのストーリーの中核にキラーパスが効いているほど、こうした成り行きの可能性は大きくなります。模倣しようとすることそれ自体が、かえって模倣の対象との距離を広げてしまうわけどですから、レベル4は究極の持続的な競争優位だといえるでしょう。ヒト・モノ・カネ・情報の流通スピードが速くなり、その範囲もどんどんグローバルになっています。この不可逆的な傾向は、ある戦略で成功してもすぐにまねされてしまい、以前と比べると競争優位を持続しにくくなるということを意味しています。しかしその反面で、情報の流通が盛んになるほど、優れた戦略ストーリーが喧伝され、業界の内外で知れわたるだけに、それを(生半可に)模倣しようとする企業はふえるのかもしれません。模倣すること自体が差異を増幅するという、ここでお話ししたメカニズムに注目すれば、情報技術やグローバル化がどんなに進展しても、独自の優れた戦略ストーリーを構築した企業の優位は一般に思われている以上に持続的だといえそうです。

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