河合忠彦「ホンダの戦略経営」(1)
リーマンショックを一種のシンボルとした金融危機の後、需要の急減はGMの破綻を招くなど自動車業界にも深刻な影響を与えました。日本の自動車メーカーもその波紋から逃れられるわけでもなく、しかし、各メーカーの対する影響は、それぞれ差がありました。トヨタのように売上高やシェアの拡大のために大型車への傾斜を強め、生産設備を急拡大した結果、赤字に転落して大きな過剰生産を抱えるに至ったのに対して、ホンダは黒字を計上していました。
本書では、とくにホンダの新製品開発を「新価値創造型」と位置づけて、トヨタの「完成度向上型」と対比させながら、新製品開発は経営戦略の手段であることから、これを経営に位置づけるものとして「戦略経営」という概念を用いて、トヨタと比較しながらホンダを分析していったものです。
著者の戦略経営の定義はこうです。“戦略的新製品開発も確かに重要だが、企業の存続・成長のためには、新製品開発以外のマーケティングや人的資源管理、ファイナンス等の職能戦略について戦略的である必要があり、しかも、それらはバラバラにではなく、統合的に展開されなくてはならない。このように「環境変化に合わせて(また時に先取りして)適切な“経営戦略”を構築し、その現実に向けて、新製品開発、マーケティング、人的資源管理、ファイナンス等の職能戦略を体系的に展開すること」を本書では「戦略経営」と呼ぶ”
著者は、ホンダの「新価値創造型」の新車開発という特徴を明らかにするため、次のような着眼点に注目します。
着眼点1:ホンダの新価値創造型の開発リーダーは、いかにして“新価値”を探り出し、革新的な製品コンセプトを創り出しているのだろうか。
着眼点2:ホンダの新価値創造型の開発リーダーは、製品コンセプトの形成と実現プロセスで生ずる、価値観の対立を含むさまざまな問題をいかに克服しているのだろうか。
着眼点3:ホンダの新価値創造型の開発リーダーは、新製品開発に対していかなる考え方ないしスタンス(姿勢)を持っているのだろうか。
着眼点4:ホンダには、大企業病化を防ぎ、新価値創造型リーダーシップの発揮に貢献する何らかの“組織的仕組み”があるのだろうか。あるとすれば、それはどのようなものか。
着眼点5:新製品開発は“経営戦略”および“戦略経営”とどのように関係しているのか。
これらの着眼点により、実際にホンダの新製品開発のケースを分析していきます。初代オデッセイ、初代フィット、二代目USオデッセイの実際の開発のプロセスを追い掛け、開発の軌跡から着眼点に従った分析を行い、ホンダの特徴を抽出していきます。
この具体的な分析は、本書をお読みください。楽しいですので、ここでは敢えて触れません。
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