大久保隆弘「電池覇権 次世代産業を制する戦略」(1)
低炭素社会実現に向けてキーデバイスとなるリチウムイオン電池をめぐってこれから大競争社会が始まるとして、日本企業がいかに挑むべきかの戦略の書であるという。リチウムイオン電池は日本で製品化され、すでに民生用機器の多くに使用されているが、著者は、かつての半導体、液晶ディスプレイ、携帯電話、DVD等のように開発段階で先行しながらも、製品ライフサイクルの段階における市場成長期で後発の韓国や中国、台湾に逆転され、世界シェアを大幅に落としていったことを教訓に、同じ轍を踏まない。また、電池で日本が敗れれば復活のチャンスは二度とないという危機感を持つべきだと言っています。
現在、リチウムイオン電池の生産が行われているのは、殆んどがアジア地区で日本が50%、中国が23%、韓国が22%で、実に3ヶ国で95%のシェアを占めている。90年代後半から、日本から韓国、中国に製造技術と組成に関するノウハウが流出し、アメリカからも中国へ技術と資本が渡り、急速な成長拡大を遂げているといいます。すでにリチウムイオン電池もアジア勢にキャッチアップされて来ているため、従来のパターンが繰り返されると電池産業も日本は失ってしまうことになると著者は言います。実際に、韓国のLG化学はデトロイト郊外に巨大な理知受けイオン電池工場を建設しアメリカの自動車産業とのつながりを深めているし、サムスン電子もBOSCH等の欧州企業と自動車用電池の開発を急いでいるし、また中国のBYDも国の手厚い支援を受けながら大型リチウムイオン電池の生産を急拡大させていると言います。しかし、未だ電池の覇権争いは始まったばかりであり、技術的な優位は日本にあり、まず電池の競争力を高めて、その地位を確固ににしてイノベーションで主導し、知財を固め技術の流出や模倣を受けないようにして、量産で一気に世界市場に普及させることが大切だと言う。
電池は金属イオンを正極と負極間を移動させることで電流を発生されるという単純な仕組みです。しかし、イオンの詳細な動きは電子顕微鏡でも捉えられず、正極や負極の内部構造も推察の域を出ないのが現状で、実際の電池ではイオンがどのように振舞っているのか、そのメカニズムが殆んど解明されていない。電池研究の難しさはそこにあり、実用が困難であった理由がそこにあります。様々な電池の中でリチウムイオン電池の特徴は、蓄電能力の大きさと高い電圧(約4V)が得られることです。電解液に水溶液ではなく、有機溶媒の電解液を用いるので高い電圧をかけても溶媒分解しないためです。しかも嵩張らない。リチウムイオン電池はソニーによって初めて製品化され、小型音楽プレーヤーや小型ビデオカメラ、ノートパソコン等に搭載され、用途が広がってきました.リチウム電池の開発は、成果がなかなか上がらず、徐々に実用化レベルに辿り着いた「積み上げ型」「擦り合わせ型」のタイプで、正極、負極、電解液の組み合せを企業間、部門間で繰り返しながら開発される、用途に応じて最適な材料も異なり、その都度綿密な擦り合わせが必要とされるもので、これが日本で発達を遂げた大きな理由と言えます。リチウムイオン電池は未だ発展途上にあり、90年代から製品開発が続き20年を経た現在も技術と素材の改良は続いています。一定の性能基準を満たした電池が量産化される一方で、次々に新たな素材を用いた電池が別途開発されている状況でもあります。民生用リチウムイオン電池においては、すでに日本企業は韓国企業に主役の座を奪われつつあり、日本の技術が電池メーカーの技術者や材料メーカーから流出し、製造装置も量産化のノウハウも伝わって、標準品のコスト競争期を迎えていて、モノ作りの競争から、日本、韓国、中国の技術者たちによる性能、品質の開発競争の時代に入ったといえます。ここで、大型用リチウム電池の時代が始まり、二次電池をめぐる開発競争は一変した。大型用リチウムイオン電池とは一つのセルが40Ah以上のサイズのものをいい、おおよそ携帯電話で用いる小型リチウムイオン電池の約60個分に相当する。
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