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2010年11月 7日 (日)

河合忠彦「ホンダの戦略経営」(5)

まず、トヨタの戦略経営について。2010年は米国でのリコール問題が発生し、トヨタにとっては屈辱的な年となりました。そこに至る原因を生み出したのが、戦略経営の欠如ないし不適切だったことがあるのではないか。では、近年のトヨタの経営を分析していきます。トヨタはここ10年来「怒涛の拡大路線」をとり、建設ラッシュというほど全世界に生産工場を建設し、01年度から07年度までの生産台数の伸びは313万台と業績を急拡大させました。しかし、これは金融危機の発生等による需要の急落を全く想定せずに行われたもので、金融バブルの崩壊ととともに歯車が逆回転し、設備過剰問題に襲われることとなります。このような事態の原因として考えられるのは、成長第一主義の企業目標とフルライン戦略ではないか。“トヨタのフルライン戦略とは、業界のリーダーとして、あらゆる地域(市場)ですべてのカテゴリー(およびサブカテゴリー)の車を販売する全方位のそれである。具体的には、資金力を生かし、①未進出の地域があればそこに進出する、②未進出の(サブ)カテゴリーがあればそこに進出する、また、③進出済みの(サブ)カテゴリー内で他社から革新的なヒット車が出され、トレンドになりそうであればすかさず、より大きな規模で追随する、というものであり、大型車や高級車への進出を含む「怒涛の拡大路線」の基礎にあったのは、この戦略であった。”しかし、このような戦略は以前から一貫して取られていたもので、以前トヨタは慎重で時には臆病ですらあったと言います。すると、どこかの時点で「着実」かに「積極的」に大きな変化があったと考えれます。

その契機となったのが、いわゆる奥田改革と言われるものです。奥田氏は当時のトヨタの業績がジリ貧となったのは、大企業病と着実なブルライン戦略が原因であると考え、積極的なフルライン戦略に転換して大きな成果を上げました。では、どのような転換だったのか。まずは、奥田改革以前のフルライン戦略において最も重視されたのは、高品質で低価格の車を量産するための生産戦略と、強力な販売網によってそれを大量販売する堅実な販売戦略でこれを車の両輪として、開発戦略はこのような戦略に資するような無難で広く受け容れられる低価格のスピーディーな開発に重点が置かれ、問題解決型の資開発プロセスが機能したわけです。さらに、以上の戦略が成功して資金の余剰が生まれると、その資金の許す範囲内でフルライン戦略による設備増加やカテゴリーへの進出が試みられるという堅実なものだったと言えます。この戦略自体は、トヨタの着実な成長を実現した優れたモデルでしたが、より積極的な戦略をとる競争相手に対しては後手に回ることは否めないもので、それがジリ貧の原因と取られたわけです。 

奥田改革では、「高シェアと売上高・利益」という目標を掲げ、それを「大型車や高級車をふくむ怒涛のフルライン戦略」によって攻撃的に実現するというもので、新価値創造型の開発も一部で差別化のために行われ、販売戦略もローン販売の強化等積極化し、特徴的なのは財務戦略が非常に積極的になりました。これは折からのバブルと極めて適合的であり、業績伸長に大きく貢献しました。

しかし、このことは2つの大きな欠陥を内在させることになりました。1つは工場建設のラッシュ等需要の急減への備えを怠ったことであり、以前のシステムが長い時間をかけて熟成されたのに対して、奥田改革は以前のシステムの企業目標と企業戦略だけを新しくしたために経営全体に歪みを生じさせたことです。例えば、トップと現場の距離が拡大してしまった、また生産・販売・財務戦略においても、①以前のトヨタの最大の武器である高品質に対して疑問符が付けられることになったこと、②かつてはトヨタ銀行とまでいわれたほど堅実だったトヨタが、奥田改革以降は常に減価償却を上回る設備投資を続けるなど金融手法を駆使してまでシェア競争に邁進、するようになったこと、③特に経営層について人材の養成が間に合わなかったこと。

2009年社長に就任した豊田新社長は、以上のような怒涛路線の大転換を決意します。その戦略は、怒涛のフルライン戦略を否定しました。シェアや成長至上主義を抑制した、変容した企業環境と適合的な新しい「堅実なフルライン戦略」を構築しようとするものでした。新製品開発も、これに合わせて顧客満足を重視するものに転換させました。ただ、そのプロセスに性急さが見られ、効果が期待できるのは、これからと考えられる。

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