大久保隆弘「エンジンのないクルマが変える社会 EVの経営戦略を探る」(1)
最初に著者は本書の目的を次のように書いています。“エコカーの中でも「エンジンのないクルマ」であるEVに焦点を当て、開発の背景や各社の取り組み、今後の市場競争などに触れながら、EVが与える産業や社会への影響ついて、経営戦略やテクノロジーマネジメント、マーケティングといった経営学の視点から考察している。特にEVの登場によって
・ 自動車のモノづくりは、どのように変化するか
・ グローバルな自動車産業・電池産業の競争がどうなるのか
・ EVの普及のために必要な産業政策や企業の戦略はどうすべきか
・ EVによって、関連業界や他産業はどのような影響を受けるのか
・ 日本経済にとって、EVや電池産業がどのような意義を持つのか
・ 将来の自動車はどのように変化するのか”
EVをめぐる覇権競争は、従来の自動車メーカーの行ってきた競争とは本質的な違いがあると、著者は言います。その第一の点は自動車からエンジンがなくなるという点です。自動車メーカーは長い歴史をかけてエンジンの性能向上に努めてきました。例えば燃費の向上、排ガスの削減、軽量化など、このような良いものを安く作るという思想で延々と少しずつ積み重ねてきた競争が、電池になると機械工学で言う匠の技の世界ではなく、電気化学のイノベーションの世界に取って代わります。突如として新しい進化が生じたり、長い低迷期が続いたりするのです。エンジンのような努力の積み重ねではなく、段階的で、従来の開発のタイプのマネジメントとは異なるのです。
第二に、自動車メーカーのモノづくりの特徴は、自動車メーカーを中心とした系列化にあり、多くのサプライヤーの作った部品を自動車メーカーが効率よく組み立てるという垂直統合的なモノを行ってきました。しかし、電池とモーターは、自動車メーカーだけの力では、開発と量産化ができないものです。技術のない自動車メーカーは、電池技術のある電池メーカーなど外部に依存しなければならなくなります。内製する自動車メーカーと外部依存する自動車メーカーとの格差が始まるだろうし、強い電池メーカーは複数の自動車メーカーと取引をする可能性もあります。従来の垂直統合の系列化から電池を中心とした水平統合的なモノづくりに発展する可能性もあります。
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