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2010年12月25日 (土)

あるIR担当者の雑感(13)~IRのニッチ戦略(3)

「0510.pdf」をダウンロード

昨日は、私の勤務先の会社がIR戦略として、ほかの会社と違うことをやろうとしていて、それは定性的情報、つまり、会社の業績の数字の理由やこれからどうするのかというような数字に表れない、通常文章で説明されるような情報の開示を充実させていこうというものでした。これだけでは抽象的すぎて、実際にどうなるのか想像がつかず、説明を読んでいても雲をつかむようでしょう。それで、ひとつの見本として、私の勤務先が今年の5月に発表した3月期末の決算短信の中から企業の中長期的な課題についての定性的情報を参考としてアップします(この記事の最後にダウンロードで見て下さい)。興味ある方は読んでみてください。未だ不十分な代物ですが、他の大多数の企業のものに比べれば分量だけでも、かなり多いものです。

ても、果たしてこのようなことは開示を受ける側である投資家の間では、「待ってました!」と歓迎されるようなことでしょうか。たとえば、企業分析の専門家であるアナリストから見れば、このようなIR戦略は余計なことかもしれません。また、個人投資家と呼ばれる人たちから見れば、決算短信などあまり見ないものであるし、そんなに文章を書かれても全部読むのも大変だし、そこまでのものは必要ないという人もいるでしょう。

今年度の電機や自動車等のメーカーの業績は来年の5月ごろに一斉に発表されますが、おそらく不景気だった昨年度を上回る売り上げや利益を計上するところが多いでしょう。その結果をもって株価が上下し、そこで短期的な売買の利鞘を稼ぐ投資家も多いと思います。これに対して長期的な投資をする人は、その結果が一時的なものなのか、これからの回復あるいは成長に向けての第一歩なのかは投資判断の重要な要素になると思います。しかし、それは財務諸表の数字からは容易には推し量ることはできません。このような場合、さっきの企業は数値を発表してくれるのでいいのだというアナリストも、自ら企業を取材で訪問するなり、電話でインタビューするなりして、情報を集めているのです。だから、こういう定性的情報のニーズがないとは言えないはずです。

そして、ここからは少し大風呂敷を広げますので、眉に唾をつけてきいてほしいのですが、IRというのはインベスター・リレイション、つまりは投資家と企業との関係、コミュニケイションです。建前をいえば企業がこのようなことをやろうとしているということを誠意をもって説明し、そのことを十分理解した上で投資家は責任をもって投資するというものでしょうか。そのような理解しあう関係を築いていくことがIRの目的のはずです。これは個人対個人場合もそうですが、お互いに胸襟をひらいて本心を明かしていかなければなりません。時には良いときもあるし、悪いときもある、その時、いいものはいい、悪いものは悪い、と言えるようでなければ、信頼関係は築けないでしょう。そのために、企業の側からまずは、ある程度胸襟を開いてみせることは大切なことではないか。だいだい、このような業績への企業自身の評価とかその原因をどのように企業が把握しているかというようなことを、突っ込んで明らかにしようとすれば、そこに必ず、ちょっとした矛盾とか説明のほころびが出てくるはずなのです。それは、大体の場合に企業が一番アッピールしたいことの周辺にあるものなのです。だから、そのようなほころびは、企業がある程度胸襟を開こうとすれば、出てこざるをえない。それは、アナリストやファンドマネジャーのようなプロからすれば、企業を深く知るための絶好の糸口となるはずです。だから、投資家の側では、このようなIR戦略は歓迎することはないかもしれませんが、ないよりはある方がいいと考えていいのではないでしょうか。それに、これまで、私はIRという仕事を通して、何人ものアナリストやファンドマネジャーと会ってきましたが、彼らの多くは、この仕事が好きで、それ以上に使命感のようなものを持っているという印象を持っています。それは、単に投資で成績を上げることは職業として当然のことですが、上で述べたような投資の建前のようなことを本気で信じている、つまり、投資ということを通じて企業を育てていきたい、ひいては日本の株式市場を盛り立てていきたい、もっと言えば日本経済を活性化させていきたい、ということを本気で思っている、言わば熱い!人々が多いということです。これは以前の雑感(2)で紹介したYさんもその典型的な一人と言えます。そういう人々に対して企業も本気でぶつかっていかなければいけない。これは、私の職業的良心(のつもり)です。

さらに、個人投資家のレベルで言うと。私は日本の個人投資家のレベルは、雑感(10)で紹介したホームページ充実度ランキングで評価項目であった個人投資家に親切かどうかというところで想定されていたレベルに比べて、もっと高いレベルにあるのではないかと思っています。はっきり言って、ホームページで想定されていた個人投資家というのは無知に近いもので、私には個人投資家を馬鹿にしているとしか思えない。私には、企業がIRについてそれなりの努力をすれば、それを評価できる個人投資家はけっこう多いのではないかと思うのです。そして、不遜に聞こえるかもしれませんが、この説明の連載の最初(1)で説明したターゲッティングにフィードバックすることになりますが、私の勤務先が戦略として積極的に説明しようとしていることについて、余計とか難しすぎて随いていけないというような人は、敢えて切って捨ててもいいのではないかと思うのです。長期的な投資という点から、おそらくそういう人は、たとえ株を買ってくれても、すぐに売ってしまうケースが多いのではないか。企業を理解してもらって、その上で判断して投資してくれる個人投資家は決して愚かではないはずで、しかもそういう人に大して、誠実に説明をしていけば、その企業のファンになってくれる可能性が高いのではないか。実は、そういう株主が企業にとっては一番歓迎したい人ではないかと思うのです。そういう人は、時には企業に対して苦言を呈することもあるだろうし、決して企業ベッタリではないかもしれませんが、それはその企業のファンだからこそ言ってくれるもの、という株主を増やしたいというのは、IR担当者としての私の理想でもあります。

もしかしたら、この連載をIRの仕事に従事している人が読んでいるかもしれません。いろいろご意見もあるかと思いますが、多分、実務で様々な困難に直面している立場からいえば、そんなことできるのか?という疑問も出てくると思います。それについては、今日も長くなりましたので、明日、また、続きということで。

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