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2010年12月25日 (土)

ダニエル・J・レヴィンティン「音楽好きな脳 人はなぜ音楽に夢中になるのか」(3)

音楽は組織化された音響だと書いたが、その組織には、予想を裏切る要素が何か含まれていなければならない。そうでなければ感情表現が単調で、機械的になってしまう。私たちが音楽を味わえるのは、好きな音楽の基本となる構成(話し言葉や手話の文法に相当するもの)を学ぶ力と、次の展開を予想できる力を実っていることに深く関係している。作曲家は聴き手の期待を知り、その期待をいつ満たすか、いつ裏切るかを意図的にコントロールすることによって、音楽に感情を吹き込む。音楽を聴いたワクワク感、ゾクゾクする気持ち、思わず溢れる涙は、腕のいい作曲家とその曲を解釈する演奏家によって私たちの期待が巧みに操られた結果だ。音楽のこうした特性は、脳の中にそのまま表現されているわけではない。少なくとも、音楽を処理する最初の段階では、表現されていない、脳はひとつにはそこに何があるかに基づいて、またひとつには、学習した音楽体系の中で耳に届いた音が果たす役割を考えながらどう解釈するかに基づいて、独自のバージョンの現実を作り上げている。会話を解釈する場合と同じだ。「猫」という言葉に猫らしさはまったくないし、その言葉を作り上げている文字のどこにも、猫らしさはない。私たちはただ、この音の集まりがネコ科のペットと表わすと学習したにすぎない。同様に、私たちは一連の音がひとまとまりになることを学習し、それがいつもまとまっていると予測する。一定のピッチ、リズム、音質などが過去にどれだけの頻度でまとまっていたかを脳が統計分析し、その結果に基づいて、どんなふうにまとまって登場するかを期待する。外界とまったく同じ構造の表現が脳の中の記憶にあるという、直観的に信じてしまいそうな考え方を、ここではすっかり捨てなければならない。脳はある程度まで、知覚による歪みや錯覚を記憶し、各要素間の関係を引き出している。そして私たちのために、複雑さと美しさがいっぱいの現実を計算している。そのような考え方の基本的な証拠として、現実の光線は一次元(波長)で変化しているのに、人の知覚システムは色を二次元として扱っているという単純な事実がある。ピッチでも同じことだ。異なる速さで振動する分子の一次元の連続体から、私たちの脳は(学習した内容に応じて)三次元、四次元、あるいは五次元と、豊かな多次元ピッチ空間を生み出す。現実世界にあるものに、脳がこれだけ多くの次元を追加しているなら、正しい組み立てと巧みな結びつきをもつ響きに対して、私たちが抱く深い思いにも説明がつくだろう。

私たちは音楽のスキーマをもっている。それらは母親の胎内にいるときに生まれ、音楽を聴くたびに練り上げられたり、修正されたり、さまざまな情報を受け取ったりする。西欧音楽のスキーマには、一般に使用されている音階の知識が暗黙のうちに含まれている。たとえばインドやパキスタンの音楽を初めて聞くと耳慣れない感じがしてしまうのは、そのためだ。インドやパキスタンの人たちは耳慣れないとは感じないし、赤ちゃんもそう感じない(少なくとも、どの音楽でも耳慣れない感じは同じ程度だろう)。明らかに、自分が音楽として学習してきたものと矛盾しているから、耳慣れないわけだ。赤ちゃんは五歳になるまで、それぞれの文化的コード進行を認識できるようになる─この間にスキーマを作り出す。私たちは音楽の特定のジャンルやスタイルについて、スキーマを発達させて行く。スタイルとは、「反復」の別名ともいえる。私たちは以前耳にしたことがある何かを聴けば分かるし、同じ曲で聴いたことがあるのか、それとも違う曲で聴いたことがあるのかも区別がつく。音楽を聴くには、耳に届いたばかりの音符の知識を記憶に止める力と同時に、聴いている曲のスタイルに近い、よく知っているほかのあらゆる局の知識を記憶している力ももっていなければならない。後者の記憶は、耳に届いたばかりの音符ほど正確で鮮明でなくてもいいが、聞いている音符の文脈を確立するために必要なものだ。私たちが発達される主なスキーマは、ジャンルとスタイルの表現形式のほか、時代、リズム、コード進行、フレーズ構成(ひとつのフレーズが何小節からなるか)、曲の長さ、どの音符の後には普通どの音符が続くか、といったものが含まれる。

ここまでのところで、音楽を処理する神経構造についての図式をまとめてみよう。あらゆる音は鼓膜から始まる。するとすぐに、音はピッチごとに分解される。まもなく、言葉と音楽とは別々の処理回路に枝分かれするのだろう。会話の回路は個々の音素(文字と音声の体系を構成している子音と母音)を識別できるように信号を分解する。音楽の回路は、信号を分解し、ピッチ、音質、音調曲線、リズムを個別に分析し始める。これらの仕事を実行しているニューロンからのアウトプットが前頭葉にある領域に送られると、その領域はそれら全部をひとまとめにして、全体の時間的パターンに応じた構造や秩序があるかどうかを見つけ出そうとする。前頭葉は海馬や側頭葉の内部にある領域にアクセスして、この信号を理解するのに役立つ記憶があるかどうかを問い合わせる。

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