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2010年12月19日 (日)

あるIR担当者の雑感(10)~日興アイ・アールの全上場企業ホームページ充実度ランキングへの個人的印象

日興アイ・アールによる2010年度、全上場企業ホームページ充実度ランキングが11月29日に発表されました。私は、11月30日が説明会だったので、ようやく今ごろになって、じっくりこのニュースを見ていました。上位にランクされたのは次のような企業のホームページです。

1.        ㈱東芝

2.        ㈱NTTドコモ

3.        ㈱カプコン

4.        KDDI㈱

5.        富士フィルムホールディングス㈱

これらを見てみると、常連で毎年上位にランキングされている企業で、それぞれの分野を越えて有名な企業ですね。評価項目を見ると、なんと135項目で「分かりやすさ」29項目、「使いやすさ」26項目、「情報の多さ」78項目だそうです。個人投資家向けガバナンス、CSR、環境対応情報、個人投資家向けページでは自社の特徴や強みや戦略のポイントが分かりやすくまとめてある、あるいはIR資料では株主通信、アニュアルレポート、CSRレポート、ガバナンス報告書など盛り沢山です。

で、実際に上位のホームページを拝見してみました。たとえば、トップの東芝のページ。コンテンツは沢山あって、たしかにランキングの135もある評価項目について、多分ほとんどすべて対応していて、それぞれの項目でそれなりの水準を保っているのでしょう。そして、それらが整理されていて、まあ、見やすくレイアウトされて、しゃれたデザインで、洗練されたというのでしょうか。

でも、このようなブログのようなことまでやっている多少屈折したIR担当者個人として見ると、端的につまらない。これを作っている担当者は楽しんで仕事をしているのだろうか、と思ってしまうのです。私は、趣味でクラシック音楽を聴いていますが、ひところ日本人の若い音楽家が海外でコンクールを大挙してエントリーして、上位によく顔を出していましたが、優勝というのは少なく、とくに、ピアノでいえばショパンコンクールやリーズ国際コンクールなどのトップランクと言われるコンクールでは未だに優勝者を出していません。そこでよく言われたのが、テクニックとか間違いのない演奏をするけれど個性が乏しく、自分はこういう音楽をやるのだという主張がみえないという評価が多かったように思います。東芝のホームページを見ていて、そんなことを思い出しました。大変失礼な言い方かもしれませんが、そつがない優等生の模範解答のような、と言う感じでした。

中小企業で黙っていては注目もされないし、予算もかけられない担当者の僻みといってしまえば、それだけです。でも、初めて訪れた人が、これだけ沢山の項目があって何から見たいと思いますか?「そうか、東芝っていえばこれだよな!」というようなものが感じられない。これを作っている人が「東芝とはこういう会社だ!」というもの、いうならば企業アイデンテティが伝わってこない。投資はリターンを求めるもので、そういうのは必要ないということもあるのでしょうが。しかし、人間が作っているのだし、投資するのも人間です。IR、インベスター リレイションというのは投資家との関係を取り結ぶことで、ここでは突き詰めれば人と人と、私は思います。誤解を恐れずに言えば、東芝のホームページには企業としての人が見えてこない。

その大きな要因は、綻びがないことです。企業として悪いところがないはずはないのです。それが見えてこない。生身の人間ならば、面と向かって話していれば、隠していても何となく分かります。文章でも、このようなホームページでも、相手に分かってもらおうとある程度胸襟を開けば、そこに自ずと出てきてしまうものです。大体のところ人間だって企業だって、自分一番アッピールしたいところの直ぐ近くに一番見られたくないものがあるものです。だから、見られたくないものを隠すには、見せたいものを見せないことが一番確実なのです。東芝のホームページには、そういうリスクをかけて自社を見せようというところがない。人間の生身のコミュニケーションでは、実のところ、そこから始まるのではないでしょうか。すくなくとも、このホームページを見て、この企業に対しての夢を見ることは難しい。(将来に向けての技術とか説明されてはいますが)

こういうことを考えていると、以前、日本のいくつかのメーカーが製品の不祥事を隠してリコールをしなかったりということがあったことを思い出してしまうのです。東芝がそうだとは言いません。しかし、そつのないホームページから感じられるコミュニケーションに対する冷たさから、そのような体質のようなものを想像してしまう。

私は、東芝と言う会社は優良企業と思っています。たとえば、かつての“からくりギエモン”以来のものづくりの伝統や、日本で原発パッシングが強かった時期にあえてウェスチングハウスを買収したような大胆な経営判断、あるいはエジソン以来の白熱電灯をやめていち早くLEDに切り替えたことなど、日本企業には数少ない、大胆な経営体質の先進的な企業だと思っています。私が思うのは、例えば、そういうことに誇りを持っているようなことがホームページからは感じられないことなのです。

日興アイ・アールの評価には、そういう点は評価の対象とはなっていないのでしょう。前回、とりあげた野村IRもそうですが。どうやら、このような有名な大手のアイ・アール支援企業は、このような企業の独自性というよりも、標準的なものさしを作って、優等生的なアイ・アールを志向しているように見えます。それを見ると、私のようなとにかく独自性を何とか打ち出そうと考えているような担当者や企業にとっては、縁のない支援会社であることが明らかだということが分かります。

その意味で、このランキングは、ひねくれた私のような担当者には、反面教師として、このようにはなりたくないものとして、非常に参考になります。そういう、オマエの作っているホームページはなんぼのものなのか?と突っ込まれれば、胸を張って「どうだ!」とお見せできる自信はありません。でも、たとえば、今のこのようなやり取りからこそ、コミュニケーションが始まるのではないでしょうか。ホームページはそのようなキッカケではないかとおもうのです。

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