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2010年12月18日 (土)

小田内 隆「異端者たちの中世ヨーロッパ」(5)

中世キリスト教社会の異端は紀元千年前後という封建秩序の安定と教会改革と同時に始まります。当初の異端は、言うなれば神の秩序から離脱し、神によって定められた存在のあり方に背を向けて、「別の存在」になろうとした人々、それは「狂気」に他なりません.精霊のカリスマに導かれ、制度的・人間的制約を越えて行動できると信じ、カトリック教会を否定し、自ら異なった救済の道を「選択」したのでした。また、さらに、彼らは書物を直接読むまでは至らないものの、カリスマ的指導者の説教によって媒介されたテクスト、とりわけ聖書に含まれたメッセージへの関心が生まれたのでした。

このような異端は、世俗の支配と教会の司祭が混淆しシモニア(聖職売買)やニコライティズム(聖職者妻帯)が一般化する傾向において、両者の領域の区分を求められる中で生まれてきたとも言えるものです。カトリック教会は、1049年の教皇レオ9世の即位以来、いわゆるグレゴリウス改革を始めます。これと符牒を合わせるかのように、中世初期の異端は姿を消していきます。このグレゴリウス改革の帰結として、3つの重要な点を著者は指摘しています。

     王権は他の一般信徒と同じく従属的地位に置かれ、聖職者と一般信徒が厳然と区別されました。聖職者身分は精霊のカリスマを独占し、秘蹟によって神と人間の間を媒介する。したがって、精霊を特権的に管理する聖職者身分は一般信徒の世界から解放され、霊的に自由となる。

     ローマ教皇の首位権が現実の指導権として主張され、聖職者身分を規律化し、さらにはキリスト教世界に号令を発するようになった。教皇権は正統信仰を決定するばかりでなく、社会を規律する権力となった。

     聖職者身分と一般信徒身分の間の隔絶をもたらし、ローマ教皇の首位権のもとに聖職者身分は結集し、中央集権的に組織化され、法的な身分しての性格を強めた。この教皇を中心とする聖職者の組織体が、キリスト教世界に対するヘゲモニーを要求し、教会の統一が社会の統一を保証することとなり、真理の権威は不可避的に権力的になっていった。

言ってみれば、グレゴリウス改革は「教会の自由」を掲げ、聖職者身分が世俗世界からの解放だけでなく、霊的な立場から世俗世界を支配することを図ったと言えます。その結果、教会は世俗社会のあらゆる領域に介入し、一般信徒の生活を規律化し、封建社会の支配構造をイデオロギー的に正当化する役割を担うようになります。そして、現世での改宗を実現するために、教皇庁を中心とした官僚組織が発展し、世俗権力を動員されるようになります。

このようなグレゴリウス改革における教皇首位権の主張の一つの帰結として「異端」というスティグマの変化が起こります。それは「不服従の異端」と呼ばれるもので、著者は次のように言います。“初期教会で確立されて以来、異端は聖書や信条によって文書化された信仰の真理(三位一体・キリストの受肉・死と復活)との関係で規定された。4世紀には、キリストから「つなぎ解く力」を与えられた使途ペテロの後継者、教皇がこの真理を最終的に保証する立場にあるとされた。しかし、ここに教皇首位権の主張が信仰の領域から規律の領域へと拡大された結果、異端概念もまた規律の領域へと拡大されたのである。つまり、「信仰は服従である」。したがって、ローマ教会への不服従は信仰からの逸脱と同義であり、異端である、と。すでにアウグスティヌスが異端の「頑固さ」を強調したことに萌芽はあったが、ここにはじめて明確な教義的誤謬がなくとも「不服従」という権力関係によって「異端」とされる制度的可能性が現われたのである。これを「不服従の異端」と呼ぶ。「不服従の異端」は強力な磁場のように、狭義の信仰領域を越えて様々な領域における逸脱を圏内に引きつけていく。その中には、政敵・反逆者・偽誓者・不敬の言葉を吐く者・高利貸・性的逸脱者・魔法使いなど、雑多なカテゴリーが含まれ、信仰の問題を中心に広大な裾野が広がる。この「不服従の論理」の広大な裾野をつねに念頭において、はじめて中世異端史は十分に理解されるのではないだろうか。異端の歴史とは権力の歴史でもあるからである。”

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