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2010年12月25日 (土)

あるIR担当者の雑感(12)~IRのニッチ戦略(2)

昨日は、ターゲッティングのところまででした。これから、それでは対象を絞ってどうするのかということを、お話したいと思います。前回のおさらいですが、私の勤務先で対象として絞り込んだのは、長期的な成長に対して投資をしようとする投資家の人たちということでした。では、このような人たちはどのような情報を主に欲していると考えられるでしょうか。IRの情報開示ですから決算数値などは必要最低限の情報は開示しなければなりません。しかし、このようなターゲットの人たちに、その時々の細かな数字は果たして求められているのか。むしろ、長期的な企業の将来性を見るために有効な情報の方をより欲するのではないでしょうか。もちろん決算数値は大切です。これをベースにして企業は成長していくわけですから。しかし、単に決算数値を開示するのではなくて、成長のベースとしての視点で情報を発信していく、ということにすれば決算発表についても、ターゲットのニーズにより応えられるはずです。ではどうするかというと、数値という定量的情報は大切ですが、その数値が結果としてそうなった原因や状況についての情報、つまり、決算短信で言えば財務諸表の前に文章で事業概況が説明されているところ、これは決算短信では定性的情報といいます、これをより充実させて行くということです。これは、そんな大層に言われることまでもなく、当然ことと思われる方も多いと思いますが、実際の決算短信や有価証券報告書を見てみると、力を入れている会社は意外と少ないのです。力を入れている、いない以前に、仕方なくやっているというのか、まるでやる気のないような会社もけっこう多いので、私には驚きであるのです。ここはまた、財務諸表のような定量的情報と違って文章の情報なので、書こうと思えばいくらでも書ける、情報を盛り込もうと思えばいくらでもできるという性格のものです。ここを、他の会社の会社とは格段に違うものにしていこうとすることで、差別化を図るというものです。ただし、ここで誤解して欲しくないのですが、それ以外の情報発信をおざなりにするということではないのです。ターゲットはターゲットですが、それは企業としてやらなければならないことはキチンとやって、さらにそのプラスアルファをしようとするときの話です。だから、決してターゲット以外の人々を無視するということではありません。

なんだ、そんなことかと思われるかもしれません。そんなことが有効ということなら、他の会社だって簡単に手をつけるだろう、と思われるかもしれません。しかし、そうでしょうか。前段で書いたように多くの企業がおざなりで済ませているのに理由がないわけではないのです。定量的情報、つまり決算数値は決められた通りに計算すれば、ある程度のものは出せるものです。これに対して、定性的情報、つまり、決算結果が出てきたのはどうしてか、ということをまとまって文章にする、しかも、踏み込んで書いていくということは、企業がその事業年度にどのようなことをやってきたかということ、そしてそれに関して結果がどうで、そうなった原因は何かということに触れることになるはずです。(私が思うに、このようなことこそ、私の勤務先がターゲットとして考える人たちが欲しいと思う情報です。)でも、実質的に、これは企業の経営の基本戦略とその結果に対する経営自身の評価でもあるわけです。大企業の場合、たとえば、前回の雑感で取り上げた東芝のような幅広く事業展開している企業では、幾多の事業を把握しそれに企業全体の動きを考えて個々の事業の企業全体の中でのウェイトを考えながら、戦略とその結果の評価をまとめていくということは、おそらく経営陣の中でも全体を統括する立場の人々、端的に言うと社長の行うことではないでしょうか。このブログで拙劣ながら翻訳で紹介したバークシャ・ハサウェイという米国の企業はCEOであるウォーレン・バフェット自身がペンを取って執筆しています。それだけ、大変なことで、大きな責任を伴うことだと思います。これに対して、日本の企業では社長自ら語るところはあるでしょうか。たぶん、現在のところはないのではないかと思います。では、日本の企業はどうしているのか。だいたいは、経理、経営企画あるいは広報担当の従業員もしくは責任者あたりが作成しているのではないかと思います。そのような人々が、どれだけ事業の実態や経営の戦略について社長の立場で理解し、責任をもって表現することができるでしょうか。おそらく、各事業からレポートを出させたり、各事業の代表を集めての会議を開いて文章を作成したり、するようなことになるのではないでしょうか。そのような場合、結果はある程度見えてきます。それは、現在の決算短信の文章やホームページのような可もなく不可もないものではないでしょうか。

そのような突っ込んだ定性的情報で説明することについての困難さを認識しているなら、どのようにして、敢えて定性的情報で他の会社より突出しようなどと考えるのは、どのようにして行うつもりなのか、と思われることでしょう。それは規模の小さい企業ならではの有利さを生かすことによって、ある程度はやっていけるのです。私の勤め先では、実際には、私と私の後を引き継ぐことになる若い社員で作成しているのですが、規模の小さい企業では事業全体を見ようとすることは大企業に比べれば遥かに容易です。そして、私の勤め先の大きな特徴かもしれませんが、全体として中小企業では社長との距離が大企業に比べて遥かに近い。おそらく大企業では、この件について社長と打ち合わせは1回か2回、はなはだしい場合には、そのようなことは全く行わないこともあるでしょう。そのようなやり方でも社長の考えを肌で知るということは不可能に近い。これに対して、私の勤務先のような中小企業では、社長と話すのは日常茶飯事、それこそ一日に何回も接しているし、与太話も経営に関して真剣な議論もしているわけです。後は、担当者の熱意と覚悟さえあれば、ある程度のことは可能になると思われるのです。しかも、IR担当者は日ごろの活動でアナリストやファンドマネジャーと話をする機会が多いため、投資家といわれる人々がどのような見方をするか、どのように情報を欲するかということを、ある程度想像することができます。そこで、そのような視点も交えて定性的情報を作成していくことができるのではないかと考えています。そして、これは経験の積み重ねの比重が高い、つまり、やろうと思っても一朝一夕でできることではないものです。

これは、何も決算短信に限ったことではなく、決算説明会の資料にも言えることです。それが雑感(9)でも書いた説明会資料に解説をつける必要のないものにする、ということにも通じるのです。

でも、このようなことで果たして効果が見込めるのでしょうか。これは担当者しての私の個人的な自己満足なのではないでしょうか。これは昨日の最後で、このようなことに違和感を感じられる投資家の側の人への回答ということも含めて説明したいと思っていたのですが、長くなってしまいました。今日はこのへんで、この後は明日に続きます。

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