西田宗千佳「世界で勝てるデジタル家電~メイドインジャパンとiPad、どこが違う?」(4)
第4章 日本は「オーバークオリティー」なのか
「日本のデジタル家電は、品質が非常に高い。モノ作りの技術や本質で、日本が負けているわけではない」という声があります。たしかにそうだと思います。では、日本の家電が優れている点はどこなのでしょうか。他方で「技術的に優れている」ことは、本当に「商品として優れている」ことなのでしょうか。それを考えていきます。
例えば、日本の携帯電話に対してiPhoneのほうがバッテリー容量が約1.8倍あるのに、待ち受け時間は43%も少ない。この両者の差は省電力機能の差です。両者は電力消費の特性が異なります。端的にいえば何もしていないときの消費電力をいかに少なくするかの能力の差なのです。例えば、メールを受信するときには、メールを読む以外の作業をしていない。そのような時に携帯電話をフルパワーで動かすのは無駄です。そのため、日本の携帯電話は、このような時、ほとんどの処理をオフにしてしまいます。携帯電話内のCPUは、自分に処理が回ってこないことを検知すると、動作を極力止めてしまうように作られている。この細かなコントロールの積み重ねが、最終的に大きな省電力機能となる。それが日本の携帯電話の「多機能なのにバッテリー動作時間が長め」という相矛盾する要素を同時に実現している。しかし、これに対して著者は本当に消費者のニーズに合っているかという。例えば、消費電力を節約するため日本の携帯電話は操作の反応速度が鈍く「もっさりしている」。
別の例として、著者はノートパソコンをあげています。日本には薄型で軽量なパソコンが多数存在します。これに対してアメリカのパソコンは堅牢につくられていて日本製のものほど軽くない。日本のパソコンは軽量で柔構造ゆえに精密機械であるパソコンが振動に対応できるように精密な設計が行われてます。その組み立ては職人技術の世界で、どうしても高価なものとなります。現在、このような付加価値に日本人はお金を払っていますが、他の国の人はあまり買いません。
もうひとつ、日本のメーカーが執拗に追い求め、差別化を追求するポイントがテレビの画質です。とくに黒の表現では、韓国や中国のメーカーの製品とは一線を画したクオリティを有しています。しかし、それが商品としての売れ行きにつながってはいないのです。つまり、画質が付加価値として購買に結びついていないのです。これに対して、韓国のサムソンは画質をある程度犠牲にして、テレビそのものの厚みを劇的に薄くしたデザインが非常に高く評価され、価格を抑えることでアメリカで成功をおさめました。人々の欲しがっていたのは高画質ですが、その分高価で手に入らないテレビではない。少々画質が劣っていても、デザインがよくて、今までよりリビングで栄えて、手に入りやすい価格のテレビだったのです。サムソンは、それをいち早く分析し勝負をしかけ、勝利したのです。
日本の家電のオーバークオリティとは、動作検証に対する考え方だと筆者は言います。例外処理やエラー処理の部分を厚くしすぎることはコスト効率の上でも問題となるし、ユーザーのニーズに柔軟に対応できにくくしています。
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