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2011年1月31日 (月)

河合忠彦「ダイナミック戦略論」(9)

次に、他の理論にRBVを持ち込んだ例の一つとして、ゲマワト=ピサノ理論を検討する。彼らは、企業環境が安定的な場合とタービュラントな場合に分けて議論している。ここでは後者の部分を取り上げて検討する。このような環境に適合する戦略とはどのようなものか、それは3つのダイナミック・テストをクリアしなくてはならない。まず第1のテストは、“その理論は時間の経過と共にどのように構築されていくかについての一貫した説明を提供できる”というもので、第2のテストは“その理論は、模倣の脅威に直面したときの付加価値の維持の仕方を説明できるか”であり、第3のテストは“その理論は企業環境における変化にいかに対処するかについての有用な洞察を提供できるか”というものだ。これに基づき、かれらは既存の理論を分析する。その上で、不確実性に対処するための強力なアプローチは、“成功の確率を高める、また大きなコミットメントは不可避の予期できぬチャレンジに直面した場合に、企業をたじろがせるのではなくむしろ向かっていかせる”優れたケイパヒリティを開発することである。それは具体的にはティースらのダイナミック・ケイパピリティに他ならない。この理論もティースらの理論と同じように評価できる段階にない。

最後にサンチェスの戦略的柔軟性+RBVの理論を検討する。ハイテク産業において、より多くの新製品を導入し、より広汎なラインを提供し、より急速に製品をグレードアップすることによって変化する技術的及び市場機会にかつてなく素早く反応するという柔軟性を備えた登場した。このような企業行動を可能にしたのが、戦略的柔軟性だ。ダイナミックな環境では企業が競争優位性を獲得するには、製品市場での競争を可能にする代替的行為案、“戦略オプション”、という形での戦略的柔軟性を作り出さなくてはならない。戦略的柔軟性は企業にとって利用可能な“資源の固有の柔軟性”と、これらの資源を代替的行為に用いる上での“企業の柔軟性”に同時に依存している。“柔軟な資源”とは、より広汎な製品に使えるもの、ある製品から別の製品への用途の転換のコストがより小さいもの、ある製品から別の製品への用途の転換の時間がより短いもののことである。また、“柔軟な調整”とは、製品戦略の再定義、資源の有効な再利用などにおける柔軟性を意味する。このような柔軟性をもたらしたのは、近年の2つの変化で、ひとつは“資源の柔軟性”をもたらした技術変化(情報技術と製品デザイン)であり、これらは製品アーキテクチャが標準化されたモジュラー部品によって構成されるようになったためである。また、技術変化によってもたらされたプロセス及び製品の柔軟性である。もう一つは、このような技術の変化が同時に“柔軟な調整”という経営革新をもたらした。具体的には①モジュラー・デザインにより開発・生産プロセスにおけるモジュラー組織の使用が可能になったこと、②CADDなどが企業間の迅速な電子的なインターフェイスとして使われるようになったこと、③モジュラー・デザインと情報技術の使用により、コンカレントな製品創出プロセスが可能になったことである。以上の議論に基づいて、サンチェスはダイナミックな製品市場での競争優位性を追求するための新しいドミナント・ロジックは、次の

5つであるとしている。①技術と市場機会との間のリアルタイムの媒介、②資源利用におけるダイナミックな効率、③コンピタンスの利用(レバレッジ)による多角化、④戦略的意思決定における柔軟性、⑤タービュラントな環境におけるダイナミックな均衡の達成。このようなサンチェスの理論の特徴について見ると、第1に、“戦略的柔軟性”という、そり自体資源にかかわりない視点にRBVの資源の概念を結びつけ具体的かつ説得的な理論を示したことがあげられる。ティースやゲマワトではできなかった[環境の変化→戦略の変化→必要な環境の変化]という因果関係についての明確な分析を加えている。第2に、ティースらのダイナミック・ケイパビリティの1つの具体化と見ることが出来る。サンチェスの戦略的柔軟性の概念は新製品の創出能力に関するものであり、その柔軟性の増大は、需要不確実性に見舞われた企業に対して強力な対応手段を提供するからである。また、それは新製品を投入して環境自体を自己に望ましい方向に変化させることを中心とするものである。ただし、戦略的柔軟性をCADDなどによる開発・生産プロセスでの柔軟性だけに焦点を当てているため、対応できる需要不確実性のレベルが限定される点が理論の問題点であろう。

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