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2011年1月23日 (日)

河合忠彦「ダイナミック戦略論」(3)

次に考えるのはポジショニング・スクールである。さきの2つのスクールでは戦略とは個々の企業の状況に応じて個々に作られるものだったが、ポジショニング・スクールでは、戦略を企業がとるべき、持続的優位をもたらす市場での位置と見なすことから、産業や置かれた状況のいかんを問わず、基本的に数個の代替案に限定されるものであり、その中から選ばれるものであった。そこから基本戦略という概念が生まれた。この基本戦略をどう考えるかによって、2つの流れがある。一つはPPM理論であり、もう一つはポーターによるものです。まず、PPM理論は、いくつかの戦略タイプからなる多角化戦略の分析モデルで、よく知られているのがBCGマトリックスである。これは70年代企業の安定成長が企業の課題となり、多角化が戦略論の問題意識となったのに応えたものである。BCGマトリックスは、縦軸に市場成長率の高低、横軸に相対的マーケットシェアの大小を組み合わせて4つのセルとした分析ツールで、多角化戦略の形成に不可欠な製品の分類のために作られたものである。各セルには花形製品(、成長率高、シェア大)、金のなる木(低、大)、問題児(高、小)、負け犬(低、小)と、そのセルに属する製品の性質を示す名前が付けられ,その製品について企業がとるべき戦略、育成、維持、選択的投資、撤退などが示される。これをツールとして用いれば、多角化戦略の決定は極めて簡単であり、企業がその時点で所有している各製品を、マトリックス上にプロットし、そのセルに示されている戦略を採用すればいいのである。これに対して、ポーターの理論は、より本質的・普遍的な分析の枠組みと言えるが、戦略の(競争)優位性の源泉(製品の特異性、低コスト)と標的とする市場(全体、部分)のマトリックスを組み合わせる。製品の特異性を武器とし全体市場を標的とするのが“差別化戦略”、低コストを武器として全体市場を標的とするのが“コスト・リーダーシップ戦略”であり、これが二大基本戦略となる。これに対して標的を特定市場に限定するのが“集中戦略”ないしは“ニッチ戦略”である。しかし、BCGマトリックスのように単にプロットすればいいというものでなく、“5つの競争要因”の図式と“価値連鎖(バリューチェーン)”の図式との関係を考えることになる。“5つの競争要因”とは、市場の魅力度を競争企業間の敵対関係の強さ、代替品の脅威、供給業者の交渉力の強さ、買い手の交渉力の強さ、新規参入の脅威、の5つの要素から見るものである。また、“価値連鎖(バリューチェーン)”とは自社の競争優位性の源泉の分析に必要なものであり、自社の生産、マーケティングその他の活動のどこで価値が生まれているかを分析するためのものである。これらの2つの流れは、戦略形成の主体を特定メンバーに限定していること、戦略形成と実行を分離可能としている点は先行スクールと共通している。これに対して、戦略内容のいくつかの固定的な基本戦略とみなし、戦略の決定はそれらの中からの選択として捉えたことである。これらの不確実性への対応度については、BCGマトリックスは、製品には寿命があり、関連して需要の不確実があることを前提にしてモデルを構築している。とはいえ、企業が既に持っている製品を対象にしているため、新製品や高度に不確実な環境に挑戦する新規ビジネスの分析には無力であること、BGCマトリックスは成長率が安定的な場合に限る(安定していないとプロット位置が頻繁に変わり、戦略が一定しない)こと、そして、製品を自社内で育成する内部成長方式を想定していることなどから、高度に不確実な環境には対応しきれない。また、ポーター理論は一時点での戦略決定の図式であるため、不確実性を想定していないと言える。これらのポジショニング・スクールは、80年代半ば以降、安定成長の局面に適したものでしかなく、分析が環境サイドに偏り、戦略形成能力サイドを等閑視したことにより、急速に衰退していった。

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