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2011年1月21日 (金)

河合忠彦「ダイナミック戦略論」(2)

第2章 規範的戦略論

規範的戦略論とは、企業が存続・成長するためにはいかなる戦略をとるべきか、その処方箋の書き方を明らかにしていこうというもので、時代状況により、複数の流れ(スクール)が存在する。

規範的戦略論のさきがけとなったのは、1940~1970年代のデザイン・スクールである。この時期の米国経済は成長期から安定成長期にシフトしていった時期で、企業は既存事業に新規事業を加える多角化により安定的な成長を目指す“多角化”と“計画化”の時代であった。この中心的理論となったのがSWOT分析といわれるものだ。これは、環境が与える機会(O)と脅威(T)に対し、自己の強み(S)と弱み(W)をそれぞれ分析し、両者を適合させれば戦略は成功し、競争優位性を獲得できるとするもの。実践においては、S,,,Tの分析のためのチェックリストをつくり、これにより分析の結果、適合させる戦略を形成する。このような枠組みの基礎には、戦略形成の主体は、もっぱらトップ・マネジメントと考えられている。戦略がトップによって作られ、ミドル・マネジメント以下によって実行される。例えば、組織は戦略の実行のために作られることになる。これは、コンサルティング・ビジネスやビジネス・スクールにとっては適合的といえた。このようなSWOT分析は基本的な思考の枠組みとしては有効といえる。しかし、この手法では環境不確実性の分析は不可能で、この分析が用いるチェックリストは、モデルではないたげでなく、フレームワークにしては網羅的過ぎ、何が解決すべき問題なのかを企業に教えることは出来ても処方箋はかけないという本質的な限界がある。この場合処方箋は、別のモデルを外部から導入しなくてはならない。例えば、需要不確実性が発生し、その原因をチェックリストで探したとして、原因が1つであれば、それに対する対策を立てられるかもしれない。しかし、一般にこの種の現象には非常に多くの要因が関係しており、それらの要因をリストアップし、それらの関係を説明できるモデルが必要だが、それはSWOT分析の中には存在しないからだ。

次に、プランニング・スクールである。これは1960~70年代の安定成長期に、多角化により複雑化した企業活動をコントロールして安定成長を達成するために、より包括的で長期的な計画の必要性からうまれたもので、包括的経営計画論とも呼ばれる。これらよる策定プロセスは、前提の明確化、プランニング、計画の実施と見直しの3つのサブ・プロセスからなる。まず、前提の明確化では、企業の目標の形成とその実行可能性の検討が中心となる。この実行可能性の検討においてSWOT分析が利用される。そして、次のプランニングが中心的なプロセスであり、前提に基づいてより具体的な目標とその実現の方法を策定する戦略的プランニングと、これで策定された目標達成のために3~5年スパンのより具体的プログラムを年度単位で策定する。そして、短期プラニングは文字通り短期の実行計画である。これに続いて、最後の計画の実行と見直しにおいて、計画の実施のための組織化、計画の達成状況の評価と計画の見直しを行う。現在でも、長期経営計画とか5ヶ年計画などの形で名残をとどめている。これは、デザイン・スクールを精緻化、公式化したものと言える。計画の精緻化により戦略形成の主体はプランナーという専門家が実質的に担い、トップはプランナーの示す代替案から1つを選んで承認する存在でしかなくなっている。それは、反面として、細かな作業に目を向けるあまり、肝心の戦略の中身についての検討が疎かになったことが指摘できる。その結果、戦略プロセスは洞察、創造性、総合を排除してしまい、戦略とはほとんど関係ない業績コントロールという数のゲームに堕してしまった。戦略プログラミングとまで言われてしまった。この理論では環境の不確実性を体系的に扱うという問題意識はない。それ以前に環境は安定的か、変化があっても予測ないしコントロール可能と前提されていた。この前提は計画の立案にとっては好都合だが、不確実な環境の中でそれを無視して作った単一の計画への固執の危険を内包している。なお、この理論の改善型としてコンテンジェンシー・プランニングという、目標を弾力的に、複数のシナリオを環境の変化に応じて柔軟に使い分けようとする理論も現われた。しかし、複数の意味あるシナリオを作成するためにも、環境変化の不確実性の中身分析のためのモデルが必要であり、それがなければ、結局、単一の計画を作るのと大差ない。

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