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2011年2月24日 (木)

大竹文雄「経済学的思考のセンス」(1)

「お金のない人を助けるには、どうしたらいいのですか?」という小学5年生の発した問いに答えるところから、著者は、金持ちと貧乏人という所得格差の発生理由を明らかにし、貧困を解消するための方法を考えることは、経済学に課せられた大きな仕事の一つであると言う。この所得の重要な部分を占める賃金に格差が生じる基本的な原因は、生産性の差である。個人間に生産性の差が生じるのは、生まれつきの才能、教育、努力、運などが個人により異なるから。しかし、生まれや才能で収入に差についてしまえば、人々は意欲(インセンティブ)をなくしてしまうだろう。他方で、努力して成果をあげても収入が同じあれば、また人々は意欲をなくすであろう。これが、経済学でリスクとインセンティブのトレードオフ(二律背反)という問題という。所得再分配の問題が難しいのは、このトレードオフの問題と同じであると筆者は言う。そして、社会における様々な現象を、人々のインセンティブを重視した意思決定メカニズムから考え直すことが、経済学的思考法であると著者はいう。貧しい人を助けなければならない、というだけで思考を停止するのではなく、その発生理由まで、人々の意思決定メカニズムまで踏み込んで考える。これが経済学的思考法であると著者言います。さらにもう一つ、著者が強調するのは、因果関係をはっきりさせることである。これらのことを含めて、この本の目的は、お金がない人を助ける具体的方法を提示することではなく、お金がない人を助けることの経済学的な意味を考えていくことで、その場合のキーワードとなるのは、インセンティブと因果関係である。

著者は、生活の身近な話題に対して、このような経済的思考で切り込んでいきます。例えば、「女性は、なぜ背の高い男性を好むのか?」「美男美女は本当に得か?」「イイ男は結婚しているのか?」「プロ野球は戦力均衡がいいのか、巨人のような特定球団の一人勝ちがいいのか?」「プロ野球の監督の評価」「賞金とプロゴルファーのやる気」などなど。

このような議論を前提に著者は専門である賃金の話に入っていく。

日本的賃金慣行は、一般に、終身雇用、年功賃金、企業別組合であると言われてきた。それが1990年代以降、景気低迷が続いたことにより、かつては高生産性の源であるとされてきたものが非効率で間接費の肥大の原因と、評価が変わってしまった。

最初に、終身雇用について、実際に、日本企業はすべての社員を終身雇用制度で雇用しているかといえば、実態として長期雇用慣行の労働者の比率は、もともと20~30%にすぎない。長期雇用慣行は大企業を中心として機能してきた。しかし、大企業は、本社従業員の数を少なくしている。その代わりに、長期雇用ではない、子会社や関連会社、パートタイマー、期間工、季節工といった従業員を多く雇用している。また、多くの女性労働者は雇用期間が短く、結婚や出産を機会に退職することが多かった。つまり、20~30%の長期雇用が成り立つためには、その周囲に流動的な労働者層が必要だったのだ。また、大企業の正社員だからと言って、確実に定年まで雇用が保障されていたわけでもなく、過去にも例えば赤字が二期続くような経営危機の際には解雇や希望退職が行われてきている。1990年代以降の日本企業でリストラという名の解雇が多数生じたのは、日本企業の行動様式が根本的に変化したというよりも、多くの企業が赤字に陥るほどの経営危機に直面していたためと考えられる。

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