河合忠彦「ダイナミック戦略論」(14)
最初にダイナミック・ポジショニングの意味を明らかにし、さらに戦略プロセスの一般的な形を示す。“ポジショニング”は“市場で(競争優位をもたらす)特定の位置を占めること─位置取り”の意味と考えられるが、第2章で検討したスタティック・ポジショニングでは“その位置に固定する”という意味が加えられる。これに対してダイナミック・ポジショニングでは“ある位置から別の位置へと変化させて行く”ことを意味する。したがって、ダイナミック・ポジショニング戦略は、ビジネス・ミックスを変化させて行く戦略を意味することになる。
このようなダイナミック・ポジショニングによる戦略プロセスの一般的な形は、次の4つのサブプロセスから成っている。第1が“業務目標の形成”、第2が“環境分析”、第3が“優位性分析”、第4が“具体的戦略の形成”である。この第1~4の順序はあくまでひとつの理想型であり、現実には、4つのサブプロセスを行きつ戻りつ進め、最終的に実行可能な具体的戦略を生み出すことである。これから4つのサブプロセスについて個々に検討していく。まず、第1の“業務目標の形成”について、業績目標のタイプとして、一般に社会的目標(非経済的目標)と経済的目標に大別できる。経済的目標は経済活動に直接的に対応する業績目標であり、企業にとって基本的な目標である。経済的目標はさらに、利益率や利益額のような利益目標と、利益には直接かかわらない成長率、シェア、株価などの成長率以外の目標に分けられる。各企業はそれぞれ適切と考える決定基準をつくり、それに従って決定する。このような業務目標をダイナミックな環境について考えていくと、スタティックな環境が産業の盛衰を考慮しないため成長率目標をとる必要がなく利益目標で十分で、しかも利益額より利益率、具体的には“個々のビジネスごとの平均超の利益率”をとるのが標準的であるのに対して、産業の盛衰があるため目標の幅はひろくなる。例えば利益率に関して“企業全体としての平均超の利益率”という目標が考えられるし、“企業全体としての平均超の成長率”というより積極的な目標も考えられる。次に、第2の“環境分析”について、技容積目標達成のために環境中にいかなる機会や脅威があるかを分析するもので、SWOT分析のO(機会)とT(脅威)の分析に相当するものである。前者は“ダイナミック産業ポジショニング分析”であり、魅力的な産業(市場)の発見にかかわるものである。ここでは魅力的な産業の発見が主題となるが、ダイナミックな環境では前述のように企業目標の多様化に対応して“魅力”の尺度も多様化するので、現時点での高利益率もしくは高成長率が基本的な尺度として考えられる。また、後者は“ダイナミック・マーケット・ポジショニング分析”であり、“ダイナミック産業ポジショニング分析”による決定を受けて市場でのポジションの形成にかかわるもので、ここで中心的な役割を果たすのがBPマトリックスに他ならない。そして、第3の“優位性分析”で、第2の環境分析が企業外部に関するものであるのに対して企業内部の資源に関する分析が中心となり、SWOT分析のS(強み)とW(弱み)の分析に相当する。これは、個々のビジネスの優位性に関する分析とビジネスの組替能力の分析に大別される。このうち、後者ばダイナミックな環境に固有のものといえ、ダイナミック・ポジショニング戦略の中核となる能力であり、戦略の成否を左右するものと考えられるため、これを検討する。ビジネス組替能力に関する優位性分析は、“狭義の優位性分析”と“持続性分析”に分けられる。このうち、まず“狭義の優位性分析”を検討する。これは優位性の“発生の場”の分析と“発生メカニズム(ないしは要因)”の分析とからなる。まず、ダイナミック優位性の“発生の場”について考えると、基本的に“新旧ビジネスの組み替え”に求められるが、それはさらに、“新規ビジネスへの進出”と“既存ビジネスからの撤退”、およびそれらには還元できない“新旧ビジネス間での進出と撤退のコンビネーション”に関する部分に分けることが出来る。例えば、新旧ビジネス間での進出と撤退のコンビネーション”では中心となるのは資金の循環と言える。新規事業への投資の多くは既存ビジネスからの撤退によって得られる資金で賄われるので、現実的には重要なポイントとなる。
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