菊地正俊「外国人投資家が日本株を買う条件」(3)
第3章 外国人投資家による日本の産業の評価
・国際競争力の低下が著しい電器産業
最近、日本企業の電機産業での国際的なプレゼンス低下は著しい。パナソニック、ソニー、東芝の株式時価総額を足しても、韓国のサムソンの時価総額に及ばない。このような総合電機は、インフラ製品に強みを持つものの、コングロマリット経営で選択と集中ができていないうえ、過去に株主資本を大きく毀損した歴史があるため、外国人投資家の経営への信認が低い。電機メーカーが国際競争力を低下させた理由は、①依然としてプレーヤーの数が多すぎて、国内競争で消耗して海外戦略が遅れた、②タイミングを捉えた思い切った投資ができなかった(サムソンは不況期こそ、投資の好機とみなす)、③高度な技術に溺れて、需要が急増する新興国向け製品開発に遅れたことなどである。外国人投資家からは、日本の電機株は安値で買って高値で売る循環的な投資対象であり、長期保有には適さないと見なされるようになった。
・銀行株は全く保有しなくてよいか
外国人投資家には、日本の銀行の構造的な低収益に対する諦めがある。貸出減少と並ぶ日本の銀行の構造問題は、低利鞘である。日本は、①低金利、②預貸率が低く、貸出需要に比べて預金が過剰な状態にある、③株主利益を重視する姿勢が弱く、利益よりシェアを重視しがちであることなどが、銀行の低利鞘の背景にある。大手銀行は、成長戦略として、アジアを中心とする海外事業、投信販売や資産運用事業、関連証券会社の連携の強化などをあげている。日本の製造業が皆、中国をはじめとするアジア事業を強化しているのと同様に、多くの日本の金融機関は、利益の源泉である内需が低迷しているため、海外事業強化の必要性が以前からあったし、地理的な近さの優位性を生かして、欧米金融機関より早くアジア事業を強化すべきだった。しかし、不良債権処理という後ろ向きの仕事に忙殺されてきたうえ、国際的な人材マネジメント能力に劣後していたため、欧米金融機関よりアジア事業強化が遅れた。さらに、外国人投資家は、日本の金融機関の収益性のさらなる低下につながる郵政改革法案をネガティブに見ていた。また、東京市場の地盤沈下を肌身で感じており、日本が金融立国になると信じている者は皆無である。
・世界的な食糧・水不足に関心
外国人投資家は、国際競争力が低い日本の農業・食品関連企業に関心があるのではなく、世界的な食糧不足や食品価格の長期的な上昇に関心を持っている。そこで、日本企業の農薬や農機事業に対する期待は高い。
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