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2011年2月 2日 (水)

河合忠彦「ダイナミック戦略論」(11)

第5章 ダイナミック戦略論のフレーム

ここからダイナミック理論の構築の準備作業として、方向性を明らかにして行く。そして、ダイナミック理論とスタティック理論に対して統一的視点を与えるための工夫として、“ダイナミック競争優位性”および“資源の不確実性対応能力”という2つの新たな概念を導入する。

第1章で示されたダイナミック戦略論の3つの構築方法に対応して、ダイナミック戦略論は「法則型」「不確実性型」「プロアクティヴ型」の3つのタイプに分けられる。まず、このタイプごとの方向性を考える。「法則型」戦略論について見ると、今まで見てきた理論の中で基本形としてこの型の戦略論はBCGマトリックスだけであり、それなりにダイナミック理論になっているが、完全な新製品や成長率の不安定な製品に対しては適用できず、不確実性の高いタービュラントな環境には適用できないのが問題といえる。そのためにBCGマトリックスの一般化による、よりダイナミックな利分の構築が考えられる。次いで「不確実性型」について見ると、マッキンゼー理論とアイゼンハートらの理論が第一義的にこの型に属する。マッキンゼー理論は利用可能な多くの手法を不確実性のレベルに応じて使い分け、不確実性のすべてのレベルをカバーできる。また、アイゼンハートらの理論は高不確実性下でのひとつの手法として位置づけることができる。最後に、「プロアクティヴ型」について見ると、この型に第一義的に属するのは、プラハラッドらおよびストークらのRBV、サンチェスの戦略的柔軟性+RBV、及び複雑系スクールのチャクラバシとハメルの理論だが、それぞれが対応できる不確実性のレベルが前二者は低、サンチェスは低~中、後二者は高となっている。この型についてもタービュラントな環境についてのより優れた理論が求められ、複雑適応系パラダイムに基づく、より一般的な理論の構築が考えられる。このような整理についての注意点として次の3点があげられる。第1に、「法則型」と「プロアクティヴ型」では共に既存理論の一般化が方向性となるが、両者で、その性質がことなること、第二にも「法則型」の一般理論と「プロアクティヴ型」の一般理論とでは射程距離が異なり、後者がタービュラントな環境の全域をカバーするのに対して、前者はタービュラントな環境に対する適用領域が狭いこと、第3に「不確実性型」では4つの理論が並列的に並べられているだけで、各理論がバラバラに、必要に応じて使い分けられていることを示している。このようなタイプごとの方向性の次に、これらを全体から見た方向性について考えてみる。ここで、まず気づくのは、マッキンゼー、アイゼンハート、サンチェス、チャクラバシの各理論は複数タイプの属性を持っていたことである。このことは3タイプ間の関連性を窺わせる。これを考慮しながら、環境変化に直面した企業がとる行動をモデル化し、3つのレベルから成る戦略レベルのモデルが考えられる。最初の行動として、不確実性(環境変化)の原因の探求はしばらく措いて、戦略代替案をできるだけ多く見つけ、それらを試して結果を予測し、その中でよさそうなものを選択するというレベル1である。このレベル1で良い成果が得られた場合、その次に、今後も、その戦略の延長線上で進むべきかを判断するために、不確実性の原因となった環境変化の性質を探索し、その法則を解明、それに基づき環境へのより良い適合が実現するだろう。これがレベル2となる。さらに、このようにして、法則が分かれば、それを先取りして、その法則自体を自己に有利なように変化させようとして、レベル2以上の成果を上げようとするだろう。これがレベル3となる。このそれぞれのレベルと戦略論のタイプとの間に対応関係が認められ、レベル1には「不確実性型」、レベル2にし「法則型」、レベル3には「プロアクティヴ型」が対応し、各レベルはそれ以前のステップを前提にして戦略を動員するのが有効と考えられる。これらのことから、全体的方向性として、次のことが言える。第1に、3つのタイプの理論のいずれか一つだけでは不十分であり、それら全体としてのダイナミック戦略論を考える必要があるということ。第2に、現時点で緊急性が高いのは「不確実型」および「法則型」の一般論の構築だが、その場合、両者の整合性を考えて行うべきであるということである。

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