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2011年2月23日 (水)

あるIR担当者の雑感(20)~アナリスト・レポートに感銘

このたび、ある伝手があってあるアナリストを紹介してもらい、取材ののち、レポートを書いていただきました。その方は、アナリストといっても、セルサイドとかバイサイドとかいうような現役の場から現在は距離を置いて、顧問のような位置にいる人です。純粋にアナリストというと語弊があるかもしれません。しかし、紹介されたからといっても、私の勤め先に興味を持って、レポートを書いてみてもいいと思うかは、ご本人次第というもので、結局、書いていただきました。その原稿を見せていただきました。私の勤め先は、ここで何度も書いているように地味な中小企業で、端的に言えば上場していても投資家からみればパッとしない企業なので、アナリストにカバレッジされるというようなこともなく、レポートを書いてもらうというようなことは、ない企業です。それが、レポートを書いていただけたというだけで、感慨深くなります。「ウチの会社も、レポート書いてもらえることもあるのだなあ」とか。

このことは、措いておいて、レポートの内容を読んで、さらに驚きました。面白いんです。いま、これを読んでいる人は、そんなこと当然ではないかと思われるかもしれませんが、私の勤め先はさっきも言ったようにパッとしない企業です。そして、B to B のビジネスをやっているため、一般の人には扱っている製品がどのようなものか説明しても理解してもらえない、そのため、さらに会社の不可解さが募ってしまう。だから、何とか会社の知名度を上げようとしても興味さえなかなか持ってもらえない、ということにIR担当者としては頭を悩ませていました。ところが、レポートを読むと、それはそれとして、興味を持って読めてしまうのです。悔しいけれど、プロは違います。

どうしてか、考えてみました。文章はうまい。私が、ここで綴っているようなものと比べて、読みやすく、興味が先へ先へと導かれるように書かれている。しかし、それだけではなくて、全体の視点というのか、切り口ともいうべきものが明瞭で、叙述がそれに貫かれて一本筋が通っている。様々な点の指摘がありますが、一本の筋が太い幹のようにあって、その枝葉のような構造になっているので、それぞれの指摘の関連性や全体の中で、どういう位置で、重要度はどうかも、よく分かる。それらが、言わば、ストーリーのようにつながっているのです。以前、ここでも『ストーリーとしての競争戦略』という本を取り上げましたが、レポートの説明が、あれに書かれているようないい筋となっているのです。よいレポートというのは、総じてそういうものなのかもしれないと思いました。

具体的に言うと、私の勤め先は技術志向の強いメーカーで、それが強みではあり、かつてはその強みである程度の業績を残していました。しかし、最近は業績は思うように伸びず低迷しています。レポートはそれについて、技術志向が強く、かつての会社の強みであり、いまでもある程度の業績のベースとなっていることに言及し、それ故に、今後に課題が出てくると指摘します。これは、ある面では会社にとって問題点ではあるのですが、この課題は会社が将来に向けての成長を遂げるために、乗り越えるべき壁のようなスタンスで書かれています。だから、この会社に勤める人間として、この課題はとてもありがたく読めるものです。経営者は参考にできるものではないかと思います。よいレポートはその会社が感謝するようなレポートではないかと思いました。(これは、単なる提灯記事ではないことは、念のために申し添えます)さらに、企業の伸びるために克服すべき課題の指摘とみれば、投資家サイドではその点に注目して、企業を見て投資判断の材料とできるわけです。課題の克服が進んでいれば…というように。ただし、これは企業が、このレポートの内容を真摯に受け留めるか、このレポートと同じような問題意識を持っていれば、の話ですが。

そして、さらに突っ込んで、読み込んでみると、かつて、日本の製造業は、失われた何十年と称された長期低迷から、高付加価値と新技術の開発力で世界の中で差別化を図り、低迷から脱し業績を回復させ成長させました。液晶やデジカメ、高品質の素材、機械といった分野はその最たるものです。それが、リーマン・ショックを契機として状況が大きく変わってしまい。これらの分野でも新興国にトップを奪われたり、日本の製造業が苦しい立場に立たされたという概況があります。それまで高付加価値だった製品の消費地であった欧米は、この景気低迷の影響をモロに受けて没落したといっていい。それに替わって世界市場をリードし始めた新興アジア諸国では、まずは普及が優先されることとなり、ある程度の品質でも低価格で大量に提供されるニーズの方が高い。そこで、日本のメーカーは置いてきぼりにされ、韓国、中国、台湾などの海外のメーカーの低価格で大量の商品提供に世界市場の流れを奪われていった。とまあ、単純化のきらいはありますが、世界経済は一転して変わってしまったかもしれない、という状況でなかなか変われない日本企業、とくにメーカーはその前の成功体験を引き摺ってか、全体として動きが鈍くなっているためか、変われない企業が多いようです。私の勤め先においても、国内市場は伸びる見込みが限られてきて、海外市場、この場合は新興アジア諸国に打って出るためには、グローバル競争となり、そこでの決め手は価格となる。しかし、技術志向で付加価値の高いものをどうしても作ってしまう、そこで中途半端に価格にとどまり、競争に勝てない。そんな状況の説明をレポートは課題としてあげていますが、単に、私の勤め先に限らず、もっと広く、日本の製造業に対しても言えることであり、そこには、このレポートを書いた人の日本の企業に以前のような勢いを取り戻して、経済を成長させてほしいという願いのようなものを感じるのです。

企業に投資することこそ、実はその一助であり、日本経済ともに沈滞している、日本の株式市場にも活性化してほしい。そのためには、日本の企業も国内の投資家も市場も、気がついてほしい、そんな願いが聞こえてくるようにおもえるのです。

たぶん、文章のうまさや内容の充実もさることながら、このアナリストの熱さとか思いが伝わってくるように感じられたかもしれません。

いずれにせよ、私も、発行会社にいる人間として、この熱さに応える企業でありたいと思いますし、そういう発信をしたいという思いを持っています。

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