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2011年2月10日 (木)

河合忠彦「ダイナミック戦略論」(17)

次に、ミラーの手がかりをもとに、もう一つの異なるモデルを検討する。タシュマンやオーライリらの中断均衡理論、すなわち、組織進化のパターンとは、比較的長い連続的でインクリメントな変化のプロセスが短い革命的な変化によって中断されるプロセスの繰り返しであるというもので、インクリメントな変化のプロセスとは、戦略、組織、構造、メンバー、および文化間の調和が増大する期間であり、革命的変化とは、それらが同時期に大きく不連続に変化する時期である。そして、企業の長期的な存続のためには、そのいずれの時期においても成功しなくてはならない。革命的な変化における成功は当然必要だが、効率の絶えざる改善のためのインクリメンタルな変かなおける成功も、短期的には業績にとって重要だからである。このような2つのタイプの変化を共に実現できる能力をもつ組織は“両刀使い(アンビデクトスラス)組織”と言うことができる。この“両刀使いの組織”を実現するためには、このような2つのタイプの変化の処理を可能にするような文化の形成が必要になる。組織そのものに関しても、基本的には複数の相互に矛盾するような組織構造、プロセス、文化を企業内に持つことが求められる。具体的には、例えば、メンバーがオーナーの感覚を持つことができ、また結果に対して責任を持てるように、組織単位は小さく自律的に維持する一方で、マーケティングや生産では規模の経済を享受できるようにする。また戦略面ではボトムアップで生ずるような文化が求められる。このような組織をリードするため、“両刀使いのマネージャー”として望ましいのは、“シンフォニーの指揮者”であり、控えめではあるが組織の価値を体現し、その見えるシンボルとして行動できる人々である。このようなタシュマン=オーライリをもとにW型交響モデルを定式化する。トップ・マネジメントは、革命的な変化の時期とインクリメンタルな変化の時期とで指揮の仕方を巧みに使い分けなくてはならない。また、革命的変化が生まれるようにするためには、分権的組織にしてミドルの企業家的行動を引き出してボトムアップ型の戦略形成プロセスにすべきであり、みずからはそれを促進する役割に止まるべきである。なお、“交響のテーマ”はミドルによって形成されるようになる。ここでのトップ・マネジメントは2つのタイプの異質な変化を巧みに乗り切ることを要請され、各ビジネスへの資源配分の決定を通じて企業全体の進路を決定しなくてはならない。したがってS型モデルと同じようにトップ・マネジメントを“シンフォニーの指揮者”とみなせる。しかし、S型は全権を掌握したトップ・マネジメントが自ら“交響のテーマ”を掲げてメンバーを強引に引っ張っていくという指揮者らしい指揮者が想定されているのに対して、このW型の場合は、指揮者は“交響のテーマ”の内容はメンバーの自律的行動にまかせ、わずかに資源配分を通じて影響を与えるにすぎない。S型の強い指揮者との対比では、W型は弱い指揮者となるためW型交響モデルと呼ぶ。しかし、このような“両刀使い”のモデルによる組織には一定の有効性はあるものの射程距離には限界があり、タービュラントな環境には不適切といえる。その理由は2つあり、第1の理由は、タービュラントな環境では、トップにはS型交響モデルの指揮者のような強力なリーダーシップが必要だと考えられるが、W型では弱い指揮者しか想定されていないことである。第2の理由は、タービュラントな環境では、ミドルについても環境の変化を先取りする強力なプロアクティヴ型の行動が期待されるが、W型ではそのような行動が期待されていないことである。このような限界に対して改善を試みる。第1に、上述の第1の理由に対応する改善策として、弱い指揮者を強い指揮者に置き換えることである。これは、強い指揮者が必要に応じて弱い指揮者も行えばよいだけである。第2に、第2の理由に対応するものとして、W型モデルの中の“メンバーの自律的行為”を引き出す仕組みを、より自律性のレベルの高い行動をひき出す仕組みに置き換えることである。この方向で改善されたモデル、ここで議論しているダイナミック・モデルに近いものとなる。

W型交響モデルし高いレベルのプロアクティヴ型行動を欠くためにタービュラントな環境に対しては不適切であり、そのような行動を組み込んだモデルが必要だった。個々で提起されるのが、“交響”に対置される概念としての“(複数のプレイヤーによる)即興”であり、その本質は、各プレイヤーの個性的でプロアクティヴな行動のぶつかり合いの中から新しく魅力的な旋律が生まれるところにある。以下で、このような“即興モデル”を検討する。

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