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2011年2月20日 (日)

菊地正俊「外国人投資家が日本株を買う条件」(4)

第5章 コーポレート・ガバナンスとM&A

 外国人投資家と日本企業の経営者では、M&Aに対する考え方が根本的に異なる。外国人投資家は、企業は株主の物と考えているので、株主の利益増加につながるのであれば、企業を積極的に売買すべきだと考える。多くの日本企業の経営者は、企業を経営者、株主、債権者、取引先、従業員などの全てのステークホルダーが自己実現を図る場と見なしているので、企業はめったなことで売買すべきでないと考える。

 外国人投資家は、日本企業がM&Aを通じて収益力や競争力を改善して、結果として株価が上がることを望んでいる。日本企業は業界再編が遅れてきたため、国際比較で見て規模が小さくなってしまった。東証の上場会社に対しても、外国人投資家からみれば、日本は中小企業の集まりで、東証は中小型株の集まりと見なされるようになった。そのため、欧米大企業が数千億円単位で投資する中国における投資でも、日本企業は規模が小さいので、数十億円や数百億円規模の投資が多くなっている。中国市場は世界中の大企業が、将来の最大の消費市場になると見込んで大規模な投資を行って鎬を削る市場である。日本企業もM&Aを通じて企業規模を大きくしないと、中国市場での欧米アジア企業との競争に打ち勝つことができないだろう。

 企業規模の次に、外国人投資家が日本企業のM&Aに関連づけて問題だと考えることは、日本企業の低収益性である。日本の低ROEは売上高利益率、すなわちマージンが他国より低いことに主因がある。マージンが低いのは、業界再編が遅れており、各業種が無用な競争をしているためである。コーポレート・ガバナンスが利いていないため、株主価値を無視したような価格競争が広げられているとも言える。将来のM&A余地が大きいとは言えるが、外国人投資家から見れば、長年M&Aを期待しながら、何も起こらない業種が多かったため、M&Aへの期待が低下してしまった。

 米国には確実な指標としてバランスシートから計算されるPBR面での割安さに注目する投資家が多い。外国人投資家は日本株について、PBR1倍を大幅に割れても、経営者の責任を問う声が出ないことや、敵対的なM&Aが起きない日本の異常さを指摘した時代もあった。しかし、PBR1倍割れが恒常化するにつれて、日本株は資産面からの割安さが解消されずに、永遠にバリュートラップ(割安さの罠)に陥ったままとり考えが出てきた。日本には、企業が長く存続して雇用を維持しているだけで尊敬される風土がある。日本以外では、敵対的M&Aが起こらなくても、PBR1倍が大きく下回っていることは、経営者に能力がないと市場から烙印を押されているのだと己を恥じて、株価を上げる努力をするため、PBR1倍割れは、遅かれ早かれ解消されることが多い。しかし、多くの日本企業では、こうした自浄メカニズムが働かない。

 日本には成長株が少ないといわれる中で、外国人投資家は経営者のリーダーシップにより、M&Aで成長する企業を評価する。巨額の資金をつぎ込むことになるM&Aは、経営者の思い切った決断のみならず、事務方や雇った投資銀行による事前の徹底した精査が必要である。豊富な現預金を抱えたままの企業より、M&A、設備投資、商品開発などにリスクをとった経営をする企業が、外国人投資家から評価される。外国人投資家が日本経済や日本企業に改革期待を持っていた時代には、M&Aや組織再編という発表だけで、株価がポジティブに反応したこともあった。しかし、大手金融機関同士の度重なる経営統合を見て、日本企業はM&A時に重複部分の効率化を素早く行わないし、統合後も統合前の経営者が残って、権力抗争を行ったりするため、日本企業のM&Aは効果が出にくい、また出るのには長い時間がかかると認識するようになった。外国人投資家、M&Aの際の資金調達も問題視する。銀行借入や債券発行に依らないで、安易な増資をする企業が少なくないためだ。

 外国人投資家は、リーマン・ショック以降も、会社は株主のものであり、経営者は株主の利益を重視する経営を行うべきだと考えている。リーマン・ショックにより株価は急落し、欧米経済は日本同様の低成長の時代に入ってしまった可能性もあるが、こうした環境下でも外国人投資家は、経営者は株主の利益を最大化する努力を継続すべきと考えている。一方、日本の経営者の間では、リーマン・ショックで短期的な企業の利益や株主利益を重視しすぎる経営は否定された、中長期的な視野に立って株主だけでなく、取引先、従業員、債権者、地域社会などのステークホルダーを重視すべきである、英米型経営より伝統的な日本的経営の方が望ましいとの考え方が強まった。リーマン・ショック以降、外国人投資家の日本株離れが強まり、日本株が他国を下回るパフォーマンスとなったのは、世界経済の悪化や円高で景気敏感株としての日本株の評価が低下したためだけではない。外国人投資家と経営者との間でコーポレート・ガバナンスに関する認識のギャップが拡大したためでもある。

 日本株の株式資本コストは一般に6%程度と考えられる一方、東証一部の配当利回りは上昇したといえどもまだ2%程度である。現預金に至ってはほとんどゼロの金利しか生まない。日本企業の経営者には、株式のコストはゼロとの誤った考えを持つ方がいるが、外国人投資家は、資本コスト以下のリターンしか生まない資産は企業は売却すべきと考えている。

 ROEは、分子にも分母にも株価が入っていないので、投資指標ではないが、企業が株主資本をどれほど有効に利用して利益を生んだかを示す指標なので、会社は株主の物だと考える外国人投資家が重視する経営指標になっている。外国人の日本株保有比率がどんどん高まり、アクティビスト・ファンドが活発だったリーマン・ショック前までは、ROE重視を掲げる日本企業が増え、外国人投資家もROE重視の動きを評価した。しかし、最近発表された中期経営計画を分析すると、アジア重視の企業が増えるばかりで、ROEを経営目標に明示的に掲げる企業が減ってきた。日本企業のROEの軽視姿勢が、外国人投資家の日本株離れにつながった。日本企業の低ROEは、国際比較で低い売上高利益率が主因だが、レバレッジが近年大きく低下したことも、低ROEの原因になってきた。外国人投資家からは、日本企業は株主資本や内部留保を溜め込みすぎており、自社株買いや増配を通じて株主に還元すべきとの意見が増えてきた。多くの日本企業は配当性向の目標に3割を設定しているが、配当性向は企業の成長によって異なってしかるべきだと、外国人投資家は考えている。日本企業は、自社株買いしても株価が下落し、自社株買いの株価の下支え機能が信じられないため、手元流動性を豊富に持ちたいとして、自社株買いや増配に慎重な姿勢を崩していない。また、日本企業の平均自己資本比率は米国企業より高いにもかかわらず、日本企業は安易な増資をし過ぎるとの批判も多い。日本企業の株主軽視的な増資は、外国人投資家に日本株投資を敬遠させよう。

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