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2011年2月13日 (日)

河合忠彦「ダイナミック戦略論」(20)

第8章 即興的交響理論(2)

ここでは、一般モデルとしてI型交響モデルを構築し、前章で提示したS型、W型交響モデル、および即興モデルを特殊モデルとして含むものとして定式化される。

ここで考えるI型(即興的)交響モデルは、ミドルが個性的でプロアクティヴな戦略を打ち出すと共に、トップも全体代表として組織を指揮しつつ一プレイヤーとしてもプロアクティヴな戦略をとり、互いにリードしリードされつつ新しい企業戦略を創造していくモデルである。より厳密に考えると、指揮者の指揮に従って一糸乱れずに自己に割り振られた役割を遂行する“交響”をベースに、各メンバーが役割にとらわれずに、自らよいと思われる創発的戦略行動にでる“即興”を加味したモデルと言うことができる。前章で検討したバーゲルマンモデルの次のような問題を克服することにより、I型交響モデルの構築を図る。そこで、克服すべき問題点として3点があげられる。第1点は、弱いトップしか想定されておらず、彼は即興の担い手とはされていないこと、第2点は、ミドルの即興パターンが単純であること、第3点は、トップとミドルの即興的インタラクションが含まれていないことである。

まず、第2の点について検討する。まず、ミドルの戦略行動は大きく2つのタイプに分けられる。1つは基本戦略に対応した“役割戦略行動”であり、基本戦略を受けてそれを具体化し実行していく行動である。これは“交響的戦略行動”といえる。そして、もう1つは役割戦略行動とは別に自己の信ずる戦略を打ち出してその実現をめざしていく“即興的戦略行動”である。ここでは、この第2の即興的戦略行動をより体系的に考えていく。ミドルの即興的戦略行動が意味あるものとなるためには、単にミドルの自律的行動のみに止まらず、企業の基本戦略の一部を生み出すものでなくてはならない。そこで取られる行動には2つのタイプが考えられる。ミドルが自己の案をトップを説得して受け入れさせることができる場合が“説得型”であり、説得できずに、それにもかかわらず自己の案に踏み切って追認をえる場合が“独走型”である。次に、第1の問題点について検討する。ミドルの戦略行動には2つのタイプがあるように、トップも同じように2つに分けることができる。第1のタイプはトップの交響的戦略行動で、企業のもっとも基本となる戦略形成プロセスである。第2のタイプは、トップが自己の信ずる戦略を打ち出し、その実現をめざす即興的行動を意味するトップの即興的戦略行動である。後者は次の2つのタイプにさらに分けられる。第1はミドルの場合と同様の独走型である。トップが通常の確立された手続きに則って決定するのが交響的プロセスであり、それに反して決定・実現に持ち込む戦略的行動が独走型である。第2は、ミドルの即興的行動に対応するものであり、追認型と呼べるものである。これらのようなトップの即興的行動について注意すべき点は、公式のルールを否定するもので、トップ自らが行うということは組織を混乱させかねないこと、そしてトップは結果に対して責任をとることであり、これがあってはじめて適用が許されるということであり、自身にとってきわめてリスキーであるということである。

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