ウォーレン・バフェットの「株主への手紙」2010(13)
生命と負債
自動車レースの基本的な原則は、最後のゴールの時にトップに立つということです。皆さんはトップでゴールしなければなりません。疑いなく、一部の人は借りたお金を用いることで非常に裕福になりました。しかしながら、それはまた、非常に貧しくなるやり方でもありました。レバレッジが働くとき、利益は拡大するでしょう。皆さんの配偶者は皆さんが賢いと思うでしょうし、隣人は皆さんを羨むことになるでしょう。しかし、レバレッジは中毒性があります。一度、驚くほどの利益を得る経験をしてしまうと、ほとんどの人は、堅実な取引に戻れなくなります。そして、皆さんは小学校3年で学んだように、ある人は2008年に学び直したように、一連の正の数値は、その数がどんなに大きくても、ゼロを掛けるとゼロになってしまうのです。非常に賢明な人々が使う時でも、レバレッジ作用が非常に頻繁にゼロを算出することを歴史が我々に語っています。
もちろん、レバレッジはビジネスにとって致命的であることもあります。大きな負債を持つ会社は、債務を借り換えることを計画します。そして、その計画は、通常の場合、有効です。しかし、時折、会社に特有の問題や世界的な信用不足のため、満期には実際に現金を支払わなくてはならなくなります。そのために、現金を用意しておかなくてはなりません。
そして、借り手は信用が酸素に似ていることを学びます。どちらも、それが潤沢にあるときは、その存在を誰も気が付かないものです。それが無くなってしまうと、すべてが知られるのです。信用がわずかに足りなくても、会社は屈服せざるを得ません。2008年9月に、経済のあらゆる部門で夜のうちに信用が消えていったことにより、我が国全体が屈服の一歩手前まで行きました。
チャーリーも私もバークシャーの健全な状態に対して少しでも脅威をもたらすことになるような活動には興味がありません。(我々2人の年齢を足すと167歳で、今さら、棺桶リスト(死ぬ前にやっておきたいこと)にやり直すことを入れたいとは思いません)我々は、皆さん、つまり、我々のパートナーが、我々に貯金の大半を委託しているという事実を、いつまでも意識しています。その上、重要な福祉は思慮分別に依存しています。最後に、我々の保険契約者によって引き起こされた事故によって障害を負った被害者は、今から数十年間支払われるべき合計額が送られてくるのを待っています。我々が単にリターンの余分な数ポイントを追求するために、これらの顧客の皆が必要とするものを危うくするのは、無責任と言えるでしょう。
我々が金融の冒険主義に対して大きな嫌悪を持っていることを、部分的にでも、我々のささやかな経歴も示していると思います。チャーリーは私は52年間生活していたところから100ヤードも離れていないところで成長し、私の父や妻や子供たちと2人の孫が通った都心部の同じ公立高校に通っていたにもかかわらず、35歳になるまで、私と出会うことはありませんでした。しかしながら、チャーリーも私も私の祖父の食料雑貨店で若いボーイとして、5年間の契約期間で、働きました。私の祖父の名はアーネストでしたが、ほとんどの人は正しい名前で呼んでくれませんでした。だれも、アーネストのために、商品補充係としてでさえ、働こうとしませんでした。
次の見開きのページで、アーネストから末の子供(私の叔父のフレッド)に1939年に送られた手紙を、お見せします。彼は、同じような手紙を他の4人の子供たちにも送っています。私はアリスおばさんに送られた手紙を持っています。それは、彼女の財産の遺言執行人として1970年に彼女の貸金庫を開けた時、1000ドルの現金と一緒に見つけたものです。
アーネストはビジネススクールに行っていませんでした。実際、ハイスクールすら終えていませでした。しかし、彼は生き残りのための条件として資金の流動性の重要さは分かっていました。バークシャーで我々は彼の解決策である1000ドルに上乗せして、規制されたユーテリテイと鉄道事業を除いて、少なくとも10億ドルの現金を保持することを自らに課しました。我々は、習慣で、手元に200億ドル近くを保持しています。そのおかげで、先例のないほどの保険損失(保険業界にとって最大の惨事であったカトリーナ台風による約30億ドルという我々にとって最大の支払い)に耐え、金融危機の間でさえ、収や投資のチャンスを素早くつかむことができました。
我々は現金を国務省短期債券の形で保管し、100分の1パーセント以上の利回りとなる他の短期債券を避けています。これは、2008年9月にコマーシャル・ペーパーとマネー・マーケット・ファンドのもろさが明らかになる、ずっと前から固持していた方針です。我々は投資ライターであるレイ・デボウの観測に同意します“より多くのお金がスタート時点よりも利回りに手を伸ばそうとして失われている”バークシャーで、我々は銀行の与信限度額に頼りません。そして、総額が小さいものを除いて、我々は担保差し入れを必要とする契約を結んだことはありません。
さらにまた、現金は10セント銅貨すらも、過去40年にわたり配当や割り当て買戻しなどのために、バークシャーの外に出ることはありませんでした。その代わりに、今のところ1か月で約10億ドルの補強をしている、我々のビジネスを強くするために利益を全て手元に置いています。我々の自己資本は、このように、ここ40年の間に4800万ドルから1570億ドルまで増加し、我々の本質的価値も増加しました。他のアメリカの会社はこのような断固としたやり方で財務体力を確立させようとしはしませんでした。
レバレッジに対して慎重であることによって、少額からのリターンを得ることを禁じています。流動性の重荷を負っていますが、我々はよく眠れています。その上、時折我々の経済で噴出する混乱した事態の中で、他の者が生存を奪い合っている間、攻撃側に立つための財政的、精神的な強さを備えています。それは、2008年のリーマンの破たんに続く25日間のパニック状態の中で、我々が156億ドルを投資することを許したことです。
アーネストの手紙
親愛なるフレッドとキャサリンへ
長年の良き月日を過ごして、私は、単に現金を準備していなかったために、様々な損害をこうむった人々を知っている。私は、その時に必要としていたお金のために、持っていたものを犠牲にせざるを得なかった人も知っている。
お前のおじいさんは、長年の間、手が届く範囲に、ある程度の金額のお金をいつも持っていた。
何年もの間、私がビジネスで得たお金を蓄えることにより、緊急にお金を必要とする時に備えていた。この資金を有効に使う機会が、これまでに2回あった。
このように、私は皆が準備を怠るべきではないと感じた。私は、お前に何も起こらなければいいと思っている。しかし、チャンスはいつの日かお金を必要とし、必要度はひどくなり、このような考えのもと、お前が結婚する時、私はお前の名を書いた封筒の中に200ドルを資金として備えておくことを始めた。その後、追加し、今ではその中に1000ドル入れてある。
お前が結婚してから10年があっという間に過ぎた。そして、今もここに資金はある。
できれば、この封筒は貸金庫に入れて、お前が有意義な目的のために保管しておいてほしい。必要になるときは必ず来る。その時に、必要最低限の役には立つだろうし、緊急の必要にも応えるだろう。
このことにより投資や収入を得ることができるだろう。忘れてはいけない。もし、お前がすぐに投資の実現できなければ、1000ドルの用意があるという精神的な満足は、あなたの手元から離れてしまうことになるということを。
もし、そのあとでいいアイディアが浮かんだら、子供にそれを伝えなさい。
お前の伝言として、大きな地所を残したバフェットは決して大きな地所を残したわけではなかったが、何か一つだけでも残した。それは、稼いだすべてではなかったが、部分的にはたすけになるだろう。そして、それを、うまく生かしてほしい。
この手紙は、お前が結婚してから10年後に書かれた。
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