無料ブログはココログ

« 小穴晶子「なぜ人は美を求めるのか─生き方としての美学入門─」(4) | トップページ | 小穴晶子「なぜ人は美を求めるのか─生き方としての美学入門─」(6) »

2011年4月 4日 (月)

小穴晶子「なぜ人は美を求めるのか─生き方としての美学入門─」(5)

第4章     キリスト教

 キリスト教もギリシャ哲学と同じように「人間の救済はいかにして可能か」という問いを重要な問題のひとつとして持っていたと筆者は言います。救済とは死からの救済に他なりません。この観点でのキリスト教とギリシャ哲学との大きな違いは次の2点です。第1は、キリスト教の場合には、魂だけでなく肉体も救われることです。ギリシャ哲学は、不死の魂が限界ある肉体から切り離されることによって不死となるというものでしたが、キリスト教では、魂は最終的には肉体と再会し救済されることになります。肉体は現実の死によっていったんは滅びるように見えるのだが、最終的には魂といっしょになって永遠の生命を得る。これがキリスト教による「復活」の意味です。そして、第2に、救済のための条件として、ギリシャ哲学において魂が不死となるための条件は、純粋に魂だけが持っている理性を活用してロゴスによる対話を行うことで、これに対してキリスト教で救いを得るためには「理性」は問題とならず、唯一の条件は神を信じるという「信仰」です。ここで救いの条件が「理性」から「信仰」に転換したわけです。このようなキリスト教の特徴は救済される対象となる人々の拡大を促します。ギリシャ哲学の場合には、自由人とか貴族と呼ばれるエリート層の人間は、哲学にうつつを抜かす暇(自由な時間)を持っていました。さらに、ギリシャ哲学の理性至上主義は、現実の生活の中では貫くということは大変なことです。たとえば「わかっちゃいるけどやめられない」という弁解はありえず、「わかっているなら、やめろ」ということを機要請されるわけです。キリスト教の信じるということは、この「わかっちゃいるけど、やめられない」人にも救済の門戸を開けたというわけです。キリスト教はこのように神を信じるという信仰を中心として考え方ですが、同じように神を信仰するものとして、ユダヤ教やイスラム教があります。これらと、キリスト教との大きな違いとは何でしょうか。その大きな違いはキリストを信じるということです。それは、どのような意味があるのかというと。キリストがこの世に生まれ、生き、死に、復活したことを、人間と神との「契約」によって神が約束してくれたことの現実的な証拠として信じることなのです。最後の審判を経て、魂と肉体の両方が合わさって復活し、神のもとにおいて永遠の生命を得る。これが神との「契約」です。この「契約」はキリストの出現によって、それ以前の言葉による「契約」(旧約と言われます)から、死後の復活も含めたキリストの生涯を神がキリストを遣わし、その契約を行動で示したものとなりました、これを新約といいます。つまり、キリスト教はことばの力だけでは信を得ることが難しいため、行動との関わり合いによって信を得ようとするものです。だから新約聖書の大事な特徴は、キリストの生涯を弟子たちが事実として語ったものだということです。こう考えてくると、端的に言えば、キリスト教は思想ではなく事実なのだと、著者は言います。事実と密接に関係するのは、「理性」でなく、感覚や記憶です。事実として見たり聞いたりしたキリストに関することがらを語ることがキリスト教の教えにとって最も重要なことなのです。だから、この思想がイメージ制作と結びつきやすい性格のものなのです。この事実を言葉で語れば物語になり、視覚的に描けば絵画になります。ユダヤ教もイスラム教も協議で偶像崇拝を禁止し、具体的に視覚的イメージを排します。これに対して、キリスト教ではキリストの姿を具体的に示すことには抵抗がありません。これはキリストが神の子であると同時に人間であるという思想の構造に由来します。キリストのイメージは崇拝するものではなく、キリストが実在したという証拠として捉えられている。もうひとつ、具体的なイメージ制作を促す考え方として重要なことは、もう一つある。神は人間を愛して下さったから、人間はそれに応え、神を愛し返さなくてはいけないということである。それで、生身の人間ならともかく神などどのように愛してよいのか、これに答えるために、愛することは「思う」ことだということ、そして、「思う」とは具体的なイメージを思い浮かべることだ。だから、キリスト教の儀式では神を愛するために神を思う。神を思うとは、神にまつわる様々な出来事、聖書に書かれている事柄をはっきりと思い浮かべることだ。これを援けるものとして、絵画、音楽、彫刻などあらゆる芸術が生まれてくることになる。

« 小穴晶子「なぜ人は美を求めるのか─生き方としての美学入門─」(4) | トップページ | 小穴晶子「なぜ人は美を求めるのか─生き方としての美学入門─」(6) »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 小穴晶子「なぜ人は美を求めるのか─生き方としての美学入門─」(4) | トップページ | 小穴晶子「なぜ人は美を求めるのか─生き方としての美学入門─」(6) »