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2011年4月15日 (金)

あるIR担当者の雑感(24)~IR支援ツール作成支援の必要性

先日、少し話したIRツール作成支援についてです。何のことかというと、IR支援をしてくれる業者というのがあり、例えば、決算説明会の会場手配や案内状の作成と送付、当日の運営をお手伝いしますとか、また、説明会で使用する説明資料(ほとんどの会社はパワーポイントで作成する。これに対しては、私は以前に懐疑的な考えを述べたことがあります)の作成をお手伝いします、というか作成を請け負いますというのとか、個人投資家向けの説明会をアレンジしますとか、前回の記事のようにシステムを提供しますということをするサービスです。

私も、この仕事に携わった当初は、とくに、私の勤め先はそれまでIR活動を行っておらず、何をどうやっていいのか、全く分からず手探りで資料をつくり説明会を始めたときには、このような支援というのは、とてもありがたいものだったと思います。しかし、このような説明会の運営とかツールの作成とかいうようなものは、2~3回やってみれば、だんだん慣れてきて基本的なことは自分でできるようになってしまうものです。だから、こういう支援は、必要なくなってしまうのです。それで、新規上場したというような場合には、最初、このような支援会社のお世話になって、その後暫くするとお払い箱ということになるのが、お決まりのルートのように思います。それでは、成長性がないではないかということになります。しかし、これまでは、日本企業がIRに慣れていなかったとか、今まで全然やっていなくてIRを始めるという会社が結構あったので、新規需要が絶えることがなかったという状況があったと思います。それで、商売として成り立っていた、伸びていたわけです。

でも、今では、新規上場はほとんどないし、IRから撤退する会社も出てきている状況で新規獲得が難しくなってきている。それで不思議なのは、既存の支援先で、もう自分でできるからもういいや、ということで切り捨てられないでいるということです。ひとつ考えられるのは、IR担当者、あるいは担当部署が契約を打ち切ることを契機にしてIR予算を削られてしまうことを恐れて、契約をズルズル伸ばしているケース、もうひとつは、支援会社による支援を当然のことと考え自分でやろうとしない会社があることくらいでしょうか。もし、こういうことが現実にあるとしたら、残念なことですが。

なぜ残念なのかというと、IRというのは投資家との関係づくりというのは、私が、この場で何回も繰り返し申し述べてきたことですが、このことから、当然出てくるものです。つまり、初対面で話していることと、段々会う機会が増えて会話を重ねてくると、初対面のときのような話の内容では、お互いに満足できなくなるということです。IRの場に即して言えば、仮に最初は支援会社にたすけてもらって資料をつくり、説明会を行ったとしても、回を重ねていくうちに、ずっと出席している人にとっても、毎回話している内容が変わらないのであれば、つまり、進歩がないのであれば、次の説明会に出席しようという考えが起こらなくなるということです。そんなことを言っても、毎年の決算は違うのだから、それだけで前回と全く同じということはありえないだろうという指摘はあります。もっともなことです。確かにそうです。しかし、それは毎年著しく成長しているような会社や有名な大企業のような、黙っていても説明会に多数の参加者が集まるような会社です。私の勤め先のような会社は、何度も言いますが、市場でパッとしない会社は、説明会のレベルが変わり映えしなければ、次は来てくれない危険が高いのです。前回に比べて何か改善点が見られるようでないといけないというのは、私にとっては強迫観念のようになっています。単なる説明会かもしれませんが、そこで課題があるのに、それを放置して毎回同じことを繰り返しているような会社は、本業でも課題を先送りして現状に甘んじているのではないか、そう受け取られても仕方がない、一事が万事ということもあります。投資家に対してはIRが会社の最前線ですから。

それから、ここで以前にも何回も述べたことだと思いますが、定量的情報として決算数値やそのベースとなるデータを明らかにすることは大切ですが、その数値が実績として出てくる前に、会社は何をしようとしたのか、その動機としてどのような姿勢で、どのような考えでいるのか、ということを経営者が語るのが説明会の主なポイントと思っています。定量的情報に関しては投資家の人たちは分析のプロですから、ある程度のデータがあれば、プロの力で分析すると思います。しかし、その数字の背後にあるものについては、いくらでも深堀ができるものですが、外部の人間に丸投げでは、その表面をなぞるだけで終わってしまうでしょう。視点を変えて見ると、このような作業というのは企業のアイデンテティでもあるわけです。投資家という外部とのコミニュケィションのプロセスで、自己認識を深めていくというダイナミックなものでもあるのです。というのは、説明会では会社が一方的に説明するだけということはありません。必ず質疑応答があって、そのような会社の説明に対する質問や意見が出席者から出てくることになるわけで、説明した自己認識に対するフィードバックがあるわけで、そこで認識について鍛えられることにもなるわけです。このような場合、ツール作りを手伝いますというような業者では、単にツール作りの手法だけでは追いつけなくなる、実際には、表面的な手法ではたりず、その内容について、何を、どのように、考えていくかという作業が中心になっていくわけですから。

実は、企業活動というのも、これと同じで、資本主義社会にいる限りは、企業は生き残っていくためには成長していかなければならない。だから、毎年の企業活動は同じようなことをやっているようでも、何かしらの進歩、あるいは拡大が進んでいっているわけで、IR活動についても同じなのです。では、ツール作りを手伝うとか、ツールを提供するという支援業者がこれについていく、あるいは、クライアントをリードして導いてあげるためには、クライアントの会社の実情に担当者以上に首を突っ込むことがないと理論的には難しい。それが、実際にできるか、あるいは、やろうとしているか、というと難しいでしょうね。

私のような考えのIR担当者が全てとは言えませんが。多かれ少なかれ、IRとはそういうものではないか、とすれば、このような支援業者というのはIRが全体的に進歩すれば、新規上場企業やIRに熱心でない企業以外には、ニーズがなくなっていくように思えるのです。

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