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2011年4月15日 (金)

三品和弘+三品ゼミ「総合スーパーの興亡」(5)

総合スーパー本体としては、これで三社の比較が凡そ見えてきたと思います。ザックリと言えば、ダイエーは戦略でジャスコに負け、マネジメントでイトーヨーカ堂に負けていたということになります。しかし、ここ10年から20年は総合スーパー事業で三社とも等しく苦戦を強いられてきました。それは、総合スーパーそのものに寿命がやって来たとも言えます。1990年代以降、売上は伸びても営業利益はむしろ落ち込んでいます。その理由は、もともと総合スーパーは食料品で客を呼び込み、衣料品や家庭用品、日用品で利益を確保していました。しかし、90年代初頭のカテゴリーキラーの台頭により、総合スーパーの利益構造に変化が生じたのです。衣料品はユニクロ、家具はニトリ、家電はヤマダ電機というように。これにより総合スーパーに残ったのは最も利益を稼げない、客を惹きつけるための手段であった食料品だけなのです。これまで総合スーパー主体の話でしたが、総合スーパーは実は事業そのものが曲がり角にある。だから、潰れてしまったダイエーと生き残ったイトーヨーカ堂、ジャスコを分けたのは転地が成功したかどうかだったのです。つまり、三社が総合スーパー以外に何をしていたかを見る必要があります。具体的には、単体決算から連結決算に指標を広げて見るわけです。まず、ダイエーは三社の中で多角化にもっとも力を入れてきたと言えます。総合スーパーの限界を感じ、これに次ぐ新たな事業の開拓に力を入れていました。しかし、総合スーパーに代わる柱の事業を生み出せず、加えてバブル崩壊後の不況によって収益源の総合スーパーの利益も悪化した結果、資産収支が悪化し、負債返済のために多角化した事業を売却せざるを得なくなりました。これに対して、イトーヨーカ堂は、ダイエーの無秩序な多角化とは違いグループでの方向性がはっきり見て取れます。総合スーパーに加えて、コンビニのセブンイレブン、百貨店のそごうや西武などを傘下にというように、多角化はすべて小売業絡みと芯が通っており、売り場あるビジネスで勝負していくという意志がうかがえます。そして、ジャスコは、売上の大部分は小売業が占めますが、営業利益に占める小売業の割合は3分の1です。残りの利益を稼いでいるのはデベロッパー業とサービス業です。スクラップ&ビルドで手に入れたノウハウを活用して店舗開発を自ら主導し、ショッピングセンター内に出店してもらった店舗からテナント収入を得ています。今やジャスコのライバルは、アウトレットを展開する三井不動産や三菱地所に代わってきています。そして、サービス業は主に金融業と卸売業です。金融業は小売りの補完、卸売業はトップバリュというプライベートブランドです。このようにジャスコはグループとしては不動産開発や卸売業といった小売業の前段階に進出し、垂直統合を目指してきました。これらの結果は、イトーヨーカ堂とジャスコは転地に成功したと言えます。さらに、海外に目を向けてみると、日本より発展が遅れている中国やタイなど海外では総合スーパーは多くの利益を獲得できるチャンスを秘めています。三社の中で海外展開に最も力を入れているのがジャスコです。海外店舗数は三社の中でずば抜けて多い。しかし、ジャスコの海外展開は着手は遅かったと言えます。しかし、90年代に各社が慎重になる中でジャスコのみが積極的でした。また、イトーヨーカ堂の海外店舗は中国のみです。しかも地域で密集して出店しており、日本から中国という違うフィールドに場所を移そうとも、狭い範囲に集中して出店する戦略に変化はありません。このように、視野を広げてグループ全体を見ても、海外を見ても、各社の特徴は変わらないということでした。それは、自分たちの総合スーパーとしての手口を他でも活かそうとしているからです。そして、その他が総合スーパーとしての元を超えていくこと、それが転地と言えます。では、このような転地は誰が決めるかといえば、本社ではありません、経営者です。つまり、各社の転地の差は各経営者の決断、行動の差ということになってきます。ここから、分析は佳境に入り各社の経営者の分析に入ります。

では、各経営者はと行きたいのですが、ここからは、ここまでのような精彩に欠けるように思います。ダイエーの中内さんは個人ですし、それぞれの経営者を前にして少し竦んでいるように思えます。具体的に実行された戦略的施策についての分析はこれまでのものに追加するほどのものはなく、経営者の伝記的事実から、発想の裏付けを確認するにとどまっているようにも思えます。ただ一つ、興味深かったのは、三人の経営者がそれぞれのアメリカの実情を視察し、それぞれにインパクトを受け、インパクトの受け方がその後の経営の個性に反映しているという点です。アメリカというお手本を三人の経営者がそれぞれ自分なりに咀嚼して、どのように経営を行っていったかという視点は、とても興味深かったです。

また、本書では直接何も書かれていなかったのですが、また、潰れてしまったということでダイエーについては、良くは書かれていませんでしたが、イトーヨーカ堂もジャスコも実はダイエーあっての二社だったのではないかということが、ここでは読み取れるように思います。というのは、二社が成功している戦略は彼らが独自に考えているというよりは、(実際には、当時は、彼らは彼らで必死に考えていたわけですが)ダイエーをメルクマークとして、言うならば参考として、反面教師として、考えていたとか思えない。極端なことをいえば、彼らの特徴的な戦略についても、結果的にこうなったもので、彼らが生き残るためにはダイエーのやらないことを模索しているうちに、こうなったというようなダイエーの影が二社の戦略にチラついてくるのです。とはいっても、ここで分析された二社の戦略は見事ですし、結果として生き残っているのでしょうけれど。そこで、経営者の分析のところで、学生たちの分析で抜けているのは、競争している三社の戦略の相互作用というのか、相互連関なのです。当然、競争しているわけですから、ライバルに勝つにはどうしたらいいのか、ということは戦略の中の重要なポイントです。それがここでの分析では抜け落ちているように思います。本書でん印象は三社が別個に独自に戦略を立てて別々に事業を進めてきたように見えます。言うなれば、100m競争をそれぞれがコースを決められたセパレートコースで競争しているようなものです。しかし、実際のビジネスの現場は、長距離のオープンコースのようなコースの取り合いのような場合が多いのです。事業戦略が他社の戦略と交錯し、鍔迫り合いが合ったりします、そこで戦略を修正したり、無理を通したりします。そのようなプロセスが見えなかったのが残念です。とくに、私が感じたようなダイエーの良くも悪くもリーディングカンパニーとして、他の二社の戦略の選択に影響を与えたかどうかのようなことは、分析してほしかったと思いました。

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