三品和弘+三品ゼミ「総合スーパーの興亡」(1)
「競争戦略を問い直す」なんかで割合著名な三品先生の神戸大学のゼミ生による、ダイエー、イトーヨーカー堂、ジャスコという3大総合スーパーの戦略の分析と、ダイエーはなぜ破たんしたかという分析を、学生たちの追跡をドキュメントのように学生たち自身が記した本。文章はたどたどしいところがあり、分析は一面的なところはあるかもしれませんが、筋は通っており、説得的で、読みやすさもあって一気に読了してしまいました。
日本の総合スーパーは1960年代アメリカのGMSと呼ばれるワンストップ・ショッピングの形態、食料品を除く日用品雑貨から家具などの買回り品まで、幅広い品揃えを実現した小売り業態、を参考に作られて行ったものです。しかし、日本の総合スーパーは、アメリカのGMSという業態をありのまま取入れるのではなく、日本の土地や消費者に適した形で発展します。例えば、食料品と衣料品を中心として取扱い、来店者の頻度は高く、立地でも駅前が主です。このような総合スーパーの代表的な3社、ダイエー、イトーヨーカ堂、ジャスコは、他を売上で大きく上回りビッグ・スリーと呼ばれました。これら3社を比較研究することで、総合スーパー業界の戦略が見えてくるのではないかというのが、この研究の意図です。
で、最初にかれらが着目したのが各店舗の店長です。総合スーパーでは店長が大事だという表現が一般的です。店長は総合スーパーの要とも言える現場の意思決定を全て行っているところに着目します。来店客の心をつかむ現場を大事にしなければ、客は店から離れてしまう。「カスタマーサティスファクション(顧客満足)は現場の頑張りに依存する」というテーゼを立て、そり現場を指示一つで良くも悪くもできる「店長」の存在は総合スーパーにおいて要であると仮定する。そこから「良い店長さんがいると、店舗の売上も良い」という仮説を立て、それを検証しようとします。そのため、ビッグ・スリーが競合しているところをピックアップして、実際に現場に調査に出向きます。調査の客観性を確保するためチェックシートを予め作成し、項目ごとにポイントを付けて競合する店舗を比較しようというものでした。しかし、残念ながら、この仮説は立証されませんでした。つまり、チェックシートでの調査や来店客の聞き取り調査などから評価した店舗の優劣と売上が一致していなかったことが明らかになったわけです。
では、売上の優劣はどこで別れるのか、彼らは考えます。次に考えたのは、「価格が低ければ店舗の売上も良い」でした。そして、競合する店舗の勝敗と価格の相関関係を調べます。全部の価格は無理ですから、どの店舗にもおいているような商品を選び、それらの値段を調査しました。しかし、これも連動性は見られませんでした。
そして、さらに仮説を立てます。それが「駅から近ければ、店舗の売上も良い」です。そこで、駅からの所要時間の差と店舗の勝敗の相関関係を見ようとしました。しかし、これも関係が見つかりませんでした。
では、競合する店舗の勝負は、いったいどこで決まるのか?
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