三品和弘+三品ゼミ「総合スーパーの興亡」(4)
次に、組織について分析を進めます。企業がどれだけ出店と管理について政策をたてても、それを実際に動かす組織がうまく機能しないと良い業績は出せない。そこで、組織図と役員人事という二つのルートから探求します。まず、ダイエーを見ると社長がすべての部門を管理する形態となっています。「中内さんのワンマン経営」というのが組織に表れています。すばやい意思決定を可能にし、一元管理できるという意味で、必ずしもワンマン経営が悪いわけではありません。しかし、当時、売上高第一位だった大きな組織では、一人の人間が管理できる範囲に限界があり、それによる弊害があったのではないかと考えられます。イトーヨーカ堂は管理本部と営業本部を対置させ、商品カテゴリーごとの事業部とし、利益責任を明確にしていることが分かります。最後に、ジャスコは、商品カテゴリと地域カテゴリのマトリックス型組織で管理している、また新規出店にかかわる開発担当を管理担当や営業担当と並列的にして比較強い権力を持たせているといえます。これが10年後には、ダイエーは地域本部がつくられ店長と社長の間に入ることにより、店長の権限が強化されたようです。イトーヨーカ堂は変化なく、ジャスコは業態ごとの小売管理がされている点で変化しています。ここから見えるのは、ダイエーの多角化戦略が10年後縮小化に転じたこと、イトーヨーカ堂は管理を徹底して利益が上がるように組織を整え、その結果が健全な財務体質の実現でした。また、ジャスコはスクラップ&ビルドで成長してきたことを反映し開発部門を一貫して重要なポジションに置いていたことが分かります。このように各社の方向性の違いに応じて、組織も違うことが分かります。次に、役員の在任年数と人数を見るのは、次のよう点を見たいからです。第一に、役員の在任年数とその人数を見ることで、各企業がどの方向に向かって経営を行っていることが分かるということ。第二に、企業の方向性を決める担い手である役員も2、3年で異動となると状況の把握だけで終わり、長期的な視点で戦略を考えることが難しくなることです。まず、商品仕入れ部門について、ダイエーは本部一括仕入れを行うことで規模の経済を活用し、低価格で商品を仕入れてきました。しかし、この方針により全国画一的な品揃えということになってしまいました。一方イトーヨーカ堂チームマーチャダイジングと言われるメーカーや卸売業との組織を横断したプロジェクトチームによる活動を本格的に始めました。消費者情報を集め分析し、その情報を生産者にオープンに伝えることで顧客ニーズ合った品揃えすることを目指したものです。このようなことから、イトーヨーカ堂が他の二社より担当役員の任期は長期になっています。いかにイトーヨーカ堂が商品仕入れに尽力しているかが分かります。また、新店舗開発の役員については、イトーヨーカ堂がダントツで長期の役員ですが他の二社は比較的短期の任期で、長期的なスパンで出店計画を考えているとは言いにくい。これらのことからダイエーとジャスコが多く短く、イトーヨーカ堂が少なく長くという傾向が存在することが見て取れました。つまり、ダイエーとジャスコでは数年間で異動となっているケースが多く存在し、対して、イトーヨーカ堂では少人数で長期間同じ業務に携わり、経営政策を練っているということです。そして、イトーヨーカ堂は新業態であるセブンイレブンと、総合スーパーの本業に徹していることが役員の分析からも分かります。
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