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2011年5月 8日 (日)

三品和広「戦略不全の論理」(7)

第五章 帰納的ミクロ戦略論

こごは、前章で得た洞察の上に立ち。生の現実から戦略とは何かを問う。ここでは「部分」から「全体」を推し量るプロセスに、前章で検討した演繹論のフレームワークを活用する。ここで用いる帰納論の発想は単純で「戦略の機能を長期収益の最大化と明示的に認識すれば、高い長期収益を実績として上げている企業群に注目し、そこに共通してみられる特徴をもって戦略を定義することができるはずである」ということである。この場足、戦略が長期収益に作用するのは確かなのだが、長期収益に作用するのは戦略だけとは限らないのである。そこで登場するのが、マッチングペア分析という基本着想である。これは、企業業績の良し悪しを絶対的に評価しようというのではなく、同一または類似の事業機会に直面する企業を組として比較し、企業業績を相対的に評価しようとするものである。戦略以外で長期収益に作用する力がすべて事業機会に固有のものとすれば、この相対比較によって浮き彫りになるのは戦略ということになる。

このようなマッチングペア分析の結果を見て、第一に頭に浮かぶのは、前章から持ち込んだ「構造の選択」という視点である。これまで分析の俎上にのせたペアは、需要や費用の構造を一にする事業を営むか、またはそういう事業の集積を営んでいる。構造が利益率を支配的に規定すると考えれば、データの説明はすべてうまくいく。ここで構造支配仮説を受け入れると、構造が利益率の上限を決めてしまうことになり、企業がその下でできることは、その上限以下に利益を落とさないことだけである。となると企業にできる戦略は、自らを翻弄する環境を選ぶことに収斂する。すなわち、構造の選択である。同じ構造を選択する限り、ペアを構成する企業間で利益率の変動パターンと水準に大差は見られない。大差が見られるのは、むしろペアとペアの間である。となれば企業にとって重要なのは、選択した構造の下であがくことよりも、選択する構造そのものをうまく選ぶことになる。そして、構造をうまく選べば、参入もおのずと制限される。これが戦略論の原点に他ならない。構造は、本当にそこまで利益率を規定するのであろうか。データ分析の結果は、需要構造は、利益率の水準に決定的な影響を及ぼしているというものであった。構造が決まれば、利益率はほとんど決まってしまうのである。これらの結果から読み取れることは、個々の企業が戦略不全に陥っているとも読むこともできるし、経営環境を共有する企業が逐次適応の経営にベストを尽くすとき、結果は基本的に横並びになると読むこともできる。だから、最初から有利な構造を選べというのは、一つの考え方である。だから逐次適応の経営に終始するのはダメであるという考え方も成立する。前者を採れば、すでに悪い構造を選択してしまった企業は大胆な商売替えを模索するしかないことになる。また後者をとれば、それとは別の道があることになる。しかし、例外的に、ペアの業績が全く交わらないケースも存在する。戦略とは、そのような乖離に見て取るべきかもしれない。

ここで、本書では例外事象として四つのケースを分析しているが(個々のケースは本書を参照すると興味深い)、そこには一つの共通点があると著者は言う。すなわち、いずれの企業も決して競争から隔離されているわけではないのに、同じ競合企業といってもぶつかり合うという姿が見られない。言うなれば競争はあっても「宿敵」がいないのである。マッチングペアの相手方の企業には不可解、または不当な比較と映る可能性が高いのである。この現象を著者は「異質化」と呼ぶ。宿敵がいないゆえに、このような企業は結果的に構造の選択や参入の制限や価値の捕捉をしたように見えるのである。必ずしも意図してそういう選択や補足をしているわけではない、だから、演繹的なマクロ戦略論に違和感が残るのである。意図してなされることがあるとすれば、単なる製品の「差別化」を超えて、事業の構えを微妙にずらす「異質化」と捉えた方がよい。そこで、著者は事例を分析して、異質化にかかわる戦略の四つの類型を見出している。まず、異端一貫型は、量産を手掛ける大手競合相手がいる業界で、大手とは全く競合しないビジネスを展開する事例である。カスタム製品を取りそろえ、ソリューション営業を展開し、モノ造りへの固定投資を最小限に絞るなど、企業の構えが一貫しているところに鍵がある。継続一貫型は、潜在的な競合相手がいる業界で、徐々に競合を振り切って、独壇場を築き上げた事例である。早い時期からやることを絞り込み、わき目も振らずにそれを徹底してやりぬいているところに鍵がある。営業能力型と製造能力型は、やはり競合相手のいる業界で、独自の能力によって局所的に競争を中立化している事例である。鍵になる営業能力や製造能力は、天賦の才というよりも競合他社とは違う発想で投資を振り向けた効果によるところが大きい。以上の分類では、運や偶然ではなく、企業の主体的な判断と営為がある。有利な構造を人為的に作り出しているという意味で、まさに戦略性が高い長期収益率を齎している事例と言える。

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