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2011年5月12日 (木)

三品和広「戦略不全の論理」(11)

第八章 日本企業の経営者

1.社長在任期間の漸次短縮化傾向

戦略は、非合理、非可分、非可逆でなければならないが、その要件を満たすのは尋常な努力の範囲では難しい。戦略を司る経営者に、強靭な頭脳と幅広い経験と長期の在任、すなわち若くしての着任が同時に求められるのである。日本型の企業モデルにおいては、一般社員のモチベーションが優先される陰で、そういう経営者を育て上げると言う発想は後手に回りがちになる。それが、慢性の戦略不全を招くのである。

日本企業の多くが慢性の戦略不全を患う最大の理由は、社長の在任期間が戦略の最低スパンに届かないことにある。その結果、経営は短命社長からから短命社長へのバケツリレーに委ねられ、戦略の非可逆性原則を満たすことはできない。これを本書では、精密・電機業界でデータにより検証している。

このような、日本の企業において社長の任期が著しい短縮化の方向に向かった背景には、所有と経営の分離という現象がある。そして日本企業は、この変化に適用する術をいまだに持てないままでいる。それが戦略不全の核心的な病原に他ならない。実際に、電機・精密機器業界の1部上場企業のうち、創業経営者が戦後の立ち上げに関与したところが7割を占め、日本は20世紀後半幕開けを所有と経営が未分離のまま迎えたという、現代日本の企業社会が成立過程において大きな歴史的特殊性を内包しているのである。それが1970年代以降、所有と経営が分離する方向に動き出した。試に在任期間が30年を超える経営者が存在する企業を見てみると、個性の明確な企業が多い。これは強力な社長が一貫して30年以上も企業を牽引する中で、明快な構えが現実のものとして定着し、成功した後もその構えから逸脱することがなかったためと考えられる。

これを踏まえて、著者は次のような仮説を提出する。即ち、終戦直後の日本は瓦礫の山から再スタートすることを余儀なくされたが、これが近来稀にみる創業、または第2創業の機会を提供した。この機会をものにした創業経営者が20年、30年と指揮を執る中で競争に勝ち残った企業は、そういう長命社長の下で強固な事業基盤を整備していった。こういう企業を中心にして、日本の企業は世界の檜舞台に躍り出ていったのである。ところが、創業経営者もいつかは第一線を引く運命にある。創業一族から後継社長が出ない、または出さないと決めた企業では、創業者の引退をもって所有と経営が分離する。ここで登場する専門経営者は、一社員として入社して、多くの上司に仕え、仕事で成果を上げてきた人である。初めから守るべきものを背負って登板するため、なかでもリスク回避を得意とする賢明な人物が指名されやすい。リスクを取って裸一貫からスタートし、ずっと経営に携わってきた創業者とはまるで好対照な人の手に、経営の主導権がここでシフトする。こういう専門経営者は、就任時点で他の社員よりも年長であることが一般的で、任期が数年しかないことを本人も周りも了解している。そういう体制の下で、専門経営者は創業者が残した事業基盤を継承して守ることに終始するが、いくら出来の良い事業基盤でも、時代の変化に伴って陳腐化することは避けがたい。ところが、4年や6年で交替していく専門経営者には、変化に対して本格的な手を打つ理由も、意欲も、能力も欠けている。こうして戦略不全が慢性化し、収益率は全体として長期低落の傾向を示すに到るのである。

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