あるIR担当者の雑感(30)~ IRのニッチ戦略(10)
前回書いたことは、あくまでも私のアイディアのレベルのことなので、実際のところ具体的なデータがあるわけでもありません。しかし、前回に例としてあげたことはひとつの反証として、ある程度有効なのではないか、と考えるのです。つまり、従来の網に引っ掛からない個人投資家は存在するのかということは証明できないにしても、存在しないということに対しては、そうではないという反証はあげられる、ということです。だから、存在するにしても、どのようなところに、どのような人がいるのか、ということは分かりません。
分らないものを対象にしてターゲッティングができるか、と問われれば、できるとは言えません。しかし、そこで、どうするかと考えてみるに、従来の活動を踏襲していたのでは、そこに届く可能性は極めて低いということです。そこで考えられる活動としては、取敢えず従来行われていなかったような活動をして反応をうかがってみるということです。もう一つは、前回の最初に紹介したようにジスモンチというミュージシャンの公演のプロモーターが行ったように地道に水脈を探していくことです。しかし、この二つの方法は、別々ではなく一緒に行うことができるでしょう。つまり、今までとは別のやり方で情報発信を行い、そこで新たに見つかるかもしれないところから水脈を探していくことも可能でしょう。また、従来のIRの対象となっている個人投資家の中にも、ここで探そうとしている対象の人もいるかもしれない。そういう場合には、従来と違うやり方でIRを行うということから、そこから新たな水脈が見つかるかもしれません。
前回と今回のようなことから演繹的に導き出されることとしては、次のようなことが考えられます。
まず、ここで対象となってくる人は、投資に対して自分なりの考え方、あるいはポリシーを持っているだろうということです。つまり、証券会社が営業施策の一環として銘柄を推奨されることや一時的なブームに追従するようなことはない、ということです。というのも、既存の網に引っ掛からないということは、証券会社の顧客ネットやインターネット投資情報サイトのネットワークから意識的に距離を置くことにより、はじめて可能となるものだと思います。自らのスタンスに意識的であるということは、自分なりの投資に対するしっかりとした姿勢が確立しているということです。そして、自分なりの姿勢が確立しているためには、ある程度の知識や経験の裏付けがあるということです。そのためには、投資のための情報収集についても自分なりの何らかのルート(情報網)をすでに持っているはずです。そして、さらに考えられることは、このような人は独立独歩であるかもしれないが、決して孤立してはいないと思われることです。そう考えられる大きな理由は、情報網です。孤立した個人の情報網では限界があります。またインターネットが発達し流通する情報量は増えていますが、投資家にとって本当に必要な情報は、それが情報としての価値がある間はインターネットには流れにくいものです。その時に、必要な情報を得るのは口コミのような人が介在する情報です。口コミ情報を得るためには、それなりの人脈がなくてはなりません。
ざっと、考えてみましたが、実際にはどうなのか、検証しなくてはなりません。しかし、今まで網に引っ掛からなかった人々のことを推測しているわけですから、実際にそういう人が身近にいるならば、これまでの作業は不要だったはずです。その検証の手懸りを前々回で取り上げた株主アンケートに求めます。
今回は、長くなったので、検証は次回にしたいと思います。
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