あるIR担当者の雑感(37)~IRとしての株主総会~証券代行は真剣に仕事をしているのか?
私は、IR担当だけでなく株主総会の運営も仕切っています。私の勤め先の定時株主総会は、日本の大多数の会社と同じように、6月に終わりました。まあ、1年に1回の大イベントが終わったということで、総会担当は、この時期1年の疲れを癒す時期になるのです。証券代行といって株式事務の代行、総会ならば招集通知の発送や書面投票の集計や総会のアドバイス等をやってくれる、日本の上場会社は自前で株式の名義書き換えができなくなったため、こういうところに業務を委託している、多くは信託銀行に委託している。私の勤め先も某信託銀行証券代行部に委託しているのですが、その担当者が総会レポートをまとめて、先日、説明に来てくれました。
レポートの内容は6月に開催された株主総会の傾向です。例えば、開催日がどの程度分散したかとか、来場株主数が増える会社と減る会社に二極分化してきているとか、総会の所要時間とか(電力会社が長くなったとか)、株主提案や議決権行使結果の開示、あるいは震災の影響により各社の総会の運営が影響をうけたこと(避難路を説明したとか、節電のため冷房の設定温度を上げたとか、総会の冒頭で黙禱したとか)などです。こういったことは、秋以降に全株懇のアンケート集計や「商事法務」による株主総会白書という詳細なレポートが出されます。なので、この説明というのは7月にうけるのは、単に早いということだけです。で、早く知った方がいいことなのかというと、そんなことはない。たしかに、今、聞くとそれなりにありがたいのですが、後で詳しいことが分るので、実務では詳しい方を使います。だから、端的に言って急ぐ必要はないし、こんなことをやっても無駄なのです。
というと見も蓋もないのですが、証券代行だからこそできることが、あるはずなので、あえて、このような言い方をしています。実際、信託銀行は一行ですべての上場会社を相手にしているわけではないので、規模で株懇や「商事法務」に最初から勝てないのです。だから同じようなレポートをしようとすると他より早く知らせるくらいしか、勝てるところがないのです。これは不毛というのか、ピント外れの努力ではないか。もっと、株懇や「商事法務」にできないところで独自性を出すということを、なぜ考えないのか、思うのです。というのも、最初に説明したように、契約した企業の証券代行業務をやっていることを、なぜ、レポートに生かして、信託銀行ならではアドバイスまで突っ込んだレポートができないのかということを、とても不満に思うのです。ハッキリ言って信託銀行の人って真剣に自分の仕事をやっているのか、ということです。あの、日々の業務を誠実にこなしているのは分るのですが、そんなことを言っているのではなくて、専門職としてプロの仕事をやっているのか、ということです。
で、具体的に、株式の名義書き換えを一手にやっているわけで各会社の株主名簿を管理していて、書面投票の集計なんかもしているわけだから、株主の中でどういう人が書面投票するのか、とか、株主の住所の分析から実際に総会に出席する人はどの程度の距離の範囲のひとなのか、とか年齢、性別といった分析はできるはずです。また、一人の株主がA社とB社の2社の株主であるときに、どっちの総会に行くか、とか、この会社の株主である人は、別のこの会社の株主でもあることが多いとか。こんなの不要だという人も、いるかもしれませんが、そういう分析ができるはずなのに、と思います。実際、株主分析サービスのようなこともやっていますが、こんなことはやってくれません。
また、実際に契約している企業の総会リハーサルに参加してアドバイスしたり、本番の総会でも手助けすることもある立場にいるので、各会社の総会のシナリオがどのように作られているかを身を以て知っているはずです。それを、分析して、全体の傾向とか、課題点を抽出するとかいうことができるはずなのにやってくれない。もったいないと思います。
とくに、最近、開かれた総会とか株主とのコミュニケーションの場とか言って、IRの観点から株主総会を捉えようという風潮もあって、信託銀行もIR支援業務を始めているようです。で、ここで、何回も書いていますが、IR担当者として、私が、例えば決算説明会で最も頭を悩ますのが、どのようなストーリーで語っていこうか、ということです。IRの観点で株主総会を、という場合にも、もし本質的にそういうことを考えるのなら、株主に会社のこと、当期の業績や将来の事業方針を理解してもらうため、このような切り口で語ろうとか、そういう語りを有効にするためには、このように総会を運営しようというような基本的な筋を考えるはずです。それが総会のシナリオに現れてくるはずです。そして、株懇や「商事法務」はそのシナリオに触れることはできないのです。なぜなら、それは出席した人か関係者しか分らないのですから。しかし、信託銀行は、それを分る立場にいる。そこで、シナリオ作成について、アドバイスすることもできれば、各社のシナリオの作り方を分析することもできる。実際に、私も担当者として、他の会社では、どのようにストーリーを考えてつくっているのかは大変知りたく思っています。というのも、株主総会には決議という最終目標があります。単に株主さんに理解してもらうだけでなく、納得して配当金だの、取締役の選任だのを認めてもらわなくてはならないのです。その点がIR説明会と大きく違うのです。単に、社長が株主の質問に丁寧に回答しただけでは済まされないのです。それを踏まえて、全体としてのストーリーをどのようにつくっているのか、それをしりたい。そして、そういうアドバイスをできるのは信託銀行だけなのです。それを武器にできと思うのに、なぜしようとしないのか、私には怠けているとしか思えないのですが。
先日、説明してくれた、担当者にそのことをチラって話したら、戸惑った顔をしていました。
IRと株主総会については、また、別の機会で考えてみたいと思います。
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