佐々木俊尚「キュレーションの時代─つながりの情報革命が始まる」(1)
プロローグ ジョゼフ・ヨアキムの物語
生涯のほとんどを放浪者として過ごしたジョゼフ・ヨアキムは70歳を過ぎると、過去の心象風景を自分自身の手で残そうと、自己流の絵を描き始める。それをシカゴのサウスサイドに借りていたアパートの窓ガラスに飾っていた。これをジョン・ホップグッドというカフェの経営者が目に留め、自分の店で個展をおこなった。この個展を出版社主のトム・ブランドが訪れ、これがヨアキムがアートシーンにデビューするきっかけとなった。ヨアキムは、晩年に「わたしが描いた絵に価値があるなんて、まったく想像もしていなかったよ」
自身ですら価値を見出していなかった作品を、ジョン・ホップグッドが見出したからこそ、アートとして認められるきっかけとなった。そう考えると、ヨアキムの作品というアートは、ヨアキムと彼を見出したポップグッドとの共同制作だったとも言える。美術の世界に限らず、インターネットの普及ということもあり、プロじゃない人の表現や発信が増えている。そういう世の中では、よい作品を生み出すためには、「つくる人」がいるだけでは難しい。それらの素晴らしい作品を「見出す人」が必要になって来る。これからの世界は、このような「つくる人」と「見出す人」が互いに認め合いながら、ひとつの場を一緒につくるようにして共同作業していくようになる。
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