佐々木俊尚「キュレーションの時代─つながりの情報革命が始まる」(6)
第三章 「視座にチェックインする」という新たなパラダイム
フォースクエアというウェブがある。位置通知サービスと呼ばれるもので、自分の居場所を携帯電話やスマートフォンを使って友人たちに通知するサービスだ。ある地点でチェックインすると、その付近に対するユーザーのコメントを参照できるのと同時に、その位置が友人たちに発信される。これは場所の情報と、誰がどこに行ったかという情報とが交換される形となる。ユーザーにとっては場所の情報をその場所で得ることができる。フォースクエアはグルメ情報やその口コミを得られ、逆に口コミを入れることもできる。逆の方向でいえば、その場所にどのような人が足繁く通っているかはマーケティングでは有効な情報ともなり、さらに数多くチェックインしている人を対象に特典を与えるなどで集客を図ることもできる。つまりは、フォースクエアというプラットフォームが、お店や消費者あるいは情報ガイドなどが参加することにより反映するエコシステム(生態系)を作っていこうとする方向性になっている。このエコシステムをうまく駆動させるために、フォースクエアはいくつかの仕掛けを巧みに導入している。第一に、みずからはモジュールに徹し、巨大プラットフォーム(ツイッターやフェイスブック)と連携したこと。第二に、場所と情報の交差点をうまく設計したこと。第三に、その交差点にユーザーが接触するために、チェックインという新たな手法を持ち込んだこと。
第一の点では、ツイッターやフェイスブックと提携する、いわば巨大プラットフォームの生態系に「おんぶにだっこ」的にモジュールとして参加し、共存共栄を図っている。このようなフェイスブックやツイッターをプラットフォームとして利用するが、フラットフォームの参加者にとっては、ツイッターやフェイスブックに参加するする付加価値が高まることになる。フォースクエア以外でもフラッシュマーケットと呼ばれるサービスもそうだ。これは一言でいえば共同購入で、例えば場所を登録してアカウントを取得すると、その場所の地域のクーポン情報が得られる。しかし、このクーポンには最低申込人数や期限が設定されている。これにより、売る側は一定人数の売上を得られる。一方消費者の側では、期限内に最低申込数に達するためユーザー同士での協力が必要で、この情報をツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアに流すと、ユーザー同士の様々なやり取りが行われる。フラッシュマーケットの自前のウェブサイトではそのようなやり取りの場は用意されておらず、その仕組みさえない。完全にプラットフォームに依存していると言っていい。ここには、ソーシャルメディアの新たなヒエラルキー構造が現われてきている。それは大きく分けると次の三つの階層に分けられる。ひとつめは、超巨大プラットフォーム。数億人というユーザーが登録し、それらのユーザーがどのように友人や知人と繋がっているのかというソーシャルグラフをすべて抱え込んでいるツイッターやフェイスブック。次の階層が、中規模モジュールで、超巨大プラットフォームのソーシャルグラフを再利用するかたちで、特化したサービスを運営するフォースクエアのようなビジネス。そして、小規模モジュールは、さらにその裾野に、例えばツイッターを使い易いアプリケーションを開発したり、フェイスブックやツイッターの自分のアカウントを解析する等の様々なツールを開発したり、といったスモールビジネスで運営さているビジネス。逆目で見れば、フォースクエアは、自らソーシャルグラフを擁しているという有利さは最初から放棄している。そのため、他の部分でユーザーを惹きつけることが必要になる。そこで、三つの仕掛けのうち残りの二つをうまく盛り込むことにより、非常に魅力あるサービスに仕立てている。
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